第6章 実践 第12話
その夜のミーティングでは、捕獲に関するワイルドライフマネージメント社の考え方についていろいろと話を聞くことができた。
捕獲に関して古くから言われていたことの多くには、非科学的なものも多く、ワイルドライフマネージメント社が考える「科学的な捕獲」とは相容れないことも多々ある。
例えば、巻き狩りの現場では、
「昔から、巻き狩りの成否は勢子の良し悪しで決まるって狩猟者は言っている。これについて、君たちはどう思う」
と山里から質問された。
「勢子が上手く獲物を追えなければ、成果は上がらないということですよね」
と答えになっていない答えを松山が返した。
「そうだね。そのために、見切りという作業が重要だとも言われているね」
「見切りってどんなことをやるのですか」
と聞いたのは瀬名だった。
柴山と後田は、お世話になっている狩猟で「見切り」を経験していたので、瀬名の質問は意外であったが、ワイルドライフマネージメント社の巻き狩りでは「見切り」が行われたことがないのは気になっていた。
「見切りは、猟をしようとする場所、普通は集水域単位で行うことが多い作業で、まずその場所に獲物が侵入した足跡や痕跡を探して、その逆に抜けた足跡や痕跡がないことを確認する作業のことだよ」
「なるほど。そうすると、その集水域のどこかに獲物がいると判断できるわけですね」
と瀬名も納得した様子である。彼女は、理解が早い。
「でも、ワイルドライフマネージメント社の巻き狩りでは見切りをやらないのはなぜですか」
と後田が質問した。
「見切りをするには、それなりの時間が必要になる。その半面、実施した場合としない場合とで捕獲成功率を比較すると、有意差はなかったということだよ」
「そうなんですか。見切りをすれば、獲物の有無が確実にわかるわけですから、その方が成功の確率は高くなるのではないのですか」
と柴山も後田も驚いたように聞き返した。
「残念ながら、見切りの有無と捕獲の成否には相関関係は見られなかったね」
「そうなると、見切りの時間て無駄になってしまいますよね・・・」
これまで見切りは必須だとまで教えられていた柴山と後田にとっては、そこを検証しようとすることすら思いつかなかった。
「残念ながら、そうなるね。昨日も今日も、我々は見切りをやらずに巻き狩りを実施したけれど、その結果はどうだったかな」
「毎回、シカがでました」
「そうだね。生息密度が高いということもあるから、生息密度の低い地域では見切りは有効なのかも知れない。でも、今はどこでも生息密度は高い傾向があるから、見切りを行う時間があれば一回でも多く巻き狩りをやった方が出会い数を増やすことができるというのが、我々の考え方なんだ」
「そうか・・・。そうすると、あとは命中率を高めれば良いわけだ」
「そうだね。そうすると最初の巻き狩りの成否は勢子の良し悪しで決まるという言葉はどうかな」
「そっかぁ、いくら勢子が優秀で獲物を追い出したとしても、命中させることができなければ、捕獲はできないわけだ」
と後田が言うと、
「巻き狩りの成否は、射手の技量で決まる」
と柴山が言った。
「そうだね。結局は、何頭シカを見ようが、鉄砲を撃って命中させることができなければ、なにも獲れないということだよ」
この言葉で、瀬名がガックリと頭を垂れた。
「命中させることができなければ、なにも獲れない」
これこそが、真実に他ならない。
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