第6章 実践 第3話
「カサ、カサ」とう落ち葉を蹴る音が、近づいてくる。
柴山の前の方からの音だ。
一番上流部に柴山が、その下には松山が、さらにその下には後田、一番下に瀬名が配置についている。
「カサ、カサ」という足音は、どんどんと大きくなって近づいてくる。
前方の木と木の間に、動く陰のようなものが見えた。
「シカだ!」
柴山の緊張は一気に高まった。
でも、今動いたら、気づかれてしまう。
これまでに、スタッフから聞かされた失敗を思い出し、ジッと動かずに今は耐えるしかない。
わずかな時間がとてつもなく長く感じる。
体内には、アドレナリンが分泌されているのだろう。
最初に確認した位置から、真っ直ぐに柴山の方へと歩いてくる。柴山との間には、割と深い沢がある。その手前で、シカは沢の中をのぞき込むように立ち止まった。
「気づかれたか!」と柴山は焦ったが、シカの動きはゆっくりとしている。
安心したのか、シカは沢底へと降りようとして、前脚を沢の中へと進めた。
沢を下りはじめると、シカは沢底しか見ていないから動いても大丈夫だと教えられていたのを思い出し、そこからは大胆に動いた。
挙銃姿勢をしっかり確認し、照星がシカの進行方向に向かって心臓の二十センチメートル前と意識して、引き止まらないように引き金を絞った。
バン!という発射音のあとで、シカが沢底へと滑り落ちていくのが見えた。
続いて下流の方から、バン!バン!と二発の銃声が聞こえた。
「松山の方へ一頭登っている」
続いて、松山のところから発砲音が聞こえてきた。
谺した銃声が収まった頃に、武井からの無線が入った。
「半矢は、倒れていました。射手の方で出合いがあったようなので、一旦これで終了します。脱包して、上の射手から順番に報告してください」
「柴山です。一頭来て、一頭倒れています」
「松山です。一頭来て、一頭倒れています」
「後田です。二頭来て、一頭倒れています。逃げた一頭は、松山君のところで倒れました」
「瀬名です。私のところへは来ていません」
「おめでとう。君たちから下の射手は発砲していないよ」
と武井が答える。
「了解しました。それでは、回収に入ってください」
と坂爪からの指示で、下流にいたスタッフは学生たちが倒したシカの回収へと手伝いに向かった。
「上手く行き過ぎだな」
というのが、黒澤と山里らの感想だった。
三発撃って三頭。半矢も倒れていたから、十一発撃って十頭の捕獲だ。
命中率は、
10頭÷11発×100=90.9パーセント
である。
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