第4章 練習 第25話

 捕獲現場では、どう動いたら良いのか分からず、スタッフについて行くのが精一杯だったが、その場で捕獲した個体を引き出し、宿泊先の裏庭の倉庫を借りて、一日かけて行われた解剖実習は、学生よりもスタッフの方が聴講したいほどの内容だった。


 スタッフは、捕獲作業を継続しなければならず、作業を終えて宿泊先に戻った時には、四頭の捕獲個体は、四人によって、バラバラに解剖され尽くした状態だった。


「いいなぁ。俺たちが受けたい実習だよ」


「そうなんですか」


「よく勉強できた」


「はい、もうしっかり」


「いいなぁ・・・」


「皆さんは、解剖はしないのですか」


「前にも教えたとおり、基本的なサンプリングはするけれど、バラバラにするようなことはしないね」


「あぁ、そうだな。子宮を摘出したり、胃の内容物を取り出すことはあっても、完全にバラバラにすることはないね」


「大物猟に呼ばれて行くと、『俺たちよりたくさんシカを獲っているのだから、解体はお手の物だろう』なんて言われるけれど、解体はやらないからね。食肉用に処理するのは、狩猟者の方が上手いと思う」


「そうなんですか」


「あぁ、ここでの捕獲個体も、基本的には埋設か焼却処理だからね。バラバラにする時間があれば、埋める時間や引き出す時間を優先させることになるね」


「目的が異なるわけですね」


「そうだな。肉を利用するわけではないからね。ともかく、一定頭数を捕獲しないことには、仕事の成果とはならないからね」


「埋設したり焼却したりすることを、もったいないと思ったら、目標の達成はできないからね」


「それだけに、今回のような解剖実習は新鮮だし、見学でもいいから受けたいって思うわけさ。知識としては、知っておきたいしね。なかなか基礎的な学習って、現場ではできないからね」


「なるほど。僕たちって恵まれているわけですね」


「おぉ、恵まれている。恵まれているなんてもんじゃないね。だって、一人一頭ずつ解剖したんだろう。そんなにもサンプルを確保することがどんなに大変かを考えてもわかるだろう」


「はい。そうですね」


 確かにそのとおりだろう。豊富なサンプルと、緻密な指導を受けられる機会なんて、そんなにあることではない。


 スケジュールどおりにサンプルを確保してくれたスタッフの苦労や東京から出張してくれた米山先生のことを思えば、確かに恵まれている。というか、恵まれすぎているくらいだろう。

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