第4章 練習 第8話

「銃が代わると、撃つイメージというか狙いなども変化するのですか」と松山が聞いた。


 スタッフは山里を見たが、山里は坂爪を指さし、回答するように促した。


「そうだね。僕は上下二連とボルト式のライフル銃だけれど、バランスは全部違うし、やはり慣れないと難しいって感じている。仕事上、スペア銃は必要だけれど、あまりバランスの異なるのは嫌かな・・・」


「坂爪さん、ライフルと散弾ではどうなんですか」と後田がたたみかける。


「うん。全く違う。その違いを無意識にでも使い分けられるようにならないといけないって思っているけれど、なかなか思うようにはいかないね」


「そうなんだ。難しいんだ・・・」


「みなさんは、どのくらいの命中率なんですか」と柴山が聞いた。


「う~ん、嫌なこときくねぇ・・・」


と渋い顔をしながら答えたのは、黒澤部長だった。彼は、そんな雰囲気を醸し出しつつも、明るくさらっと笑い話にして場を和ませてくれている。


「そうだね。クレー射撃なら、教習射撃の基準で八十パーセントくらいは命中させられるかな。スキートなら二十五枚中三枚で合格だけれど、二十枚くらいは当てられるな」


「すげぇ~。僕たちだと十枚くらいですよね」


「いや、ちょっと練習すれば直ぐに追いつけるよ」


「現場ではどうなんですか」


「あぁ、それはね。命中率だけで言えば、九十パーセント以上いくかな」


「えっ!凄すぎるじゃないですか。クレー射撃より、現場の方が簡単っていうことですか」


「いや違うよ。クレー射撃だと、出たクレーはすべて撃たないとならないけれど、現場なら命中させられない獲物まで無理して撃つことは、スレ個体を作ることにもつながるのでしない。


 だから、確実に命中させられるものだけを確実に撃つようにしているから九十パーセント以上ってなるわけだよ」と坂爪がスタッフを代表して答え続けてくれている。


「なるほど。当たらないものを撃たない。確実に当てられるものを確実に命中させる。それって、百発百中も夢じゃないってことですよね」


 興奮気味に後田が話す。


「そうだね。ただ確実に確実にとばかり思っていると、挑戦しなくなってしまう。逆に無理して撃てば、事故にもつながるかも知れない。それは、安全管理でも話したとおりだ」と山里が答えた。


「その命中させることのできる場面を増やすというのが、この練習の意味で、一気に難しいものを撃つのではなくて、確実性のある機会を次第に広げていくということが重要で、初心者には初心者なりの、ベテランにはベテランの役割というか違いがあって当然だということですよね」と竹山が山里の顔を見て話しかけた。


「そうだね。初心者が無理をすれば事故も起こる。またベテラン猟師と言うけれど、技術的には初心者と変わらない狩猟者もいるわけだから、共同で事業をする場合にはその見極めも重要となる。そのために、一緒に練習しましょうと毎回声は掛けるけれど、残念ながら一緒に練習してもらえたことはないね」


 最後は、ちょっと寂しそうな感じだった。本業が別にあるとは言え一緒に学びましょうと働き掛けても、それに応えてもらえないもどかしさを感じているのであろう。

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