第3章 入学 第40話
全員が合格したので、単純に褒めてもらえると思っていたのに、「おめでとう」の一言は、「当たり前だろう」という感じで、そのあとに続いた「何を間違ったのか」という質問の答えに詰まったところから、山里の雰囲気が変化したことに、戸惑ってしまった。
「試験は、七十パーセントで合格だけれど、そうなると三十パーセントは間違った知識をもっていても構わないっていうことだよね。これって、どう思うの」
言われてみて、山里が何を怒っているのかがわかった。
「三十パーセントの間違った知識をもったままというのは、現場には使えない。安全管理と同じく法律を守ろうという気持ちは重要だし、猟具に関する知識も鳥獣に関する知識も、より高くなければサーパスハンターとは言えないと思う」
すべてを言われるまでもなく、七十パーセントできれば合格だと甘く考えていたことが間違いであったことに全員が気づいていた。
言われてみれば当たり前なのに、なぜそのことに気づけなかったのか。
後田と瀬名は確かに満点で合格した。柴山と松山は、若干の間違いがあったとはいえ、法律で決められている点数はとっている。
しかし、現場でその間違った知識のために、法律違反をしてしまったら、その一件で事業自体が頓挫し、組織に迷惑を掛けることになってしまうこともあり得るわけだ。」
柴山もワナの試験で一問間違えていたことを思い出していたが、何を間違ったのかすら忘れてしまっている。
「今は良いとは言えない。完璧であれと求めることに無理があるのも承知している。でも、その甘えがまねく結果を洞察できないようなら、捕獲現場では使えないから、諦めるなら今のうちだよ」
はじめて山里から聞く、厳しい言葉だった。
日頃は、気さくに話もできる人なのに、今日は近づきがたい厳しさがあった。その厳しさに遭遇して四人は改めてサーパスハンターという自分たちが目指している姿をよりイメージすることができた。
四人は、お互いの合格を祝うつもりで、松山の家で飲み会を予定していたが、急遽合格祝いの会は、狩猟免許試験の反省会となった。
瀬名は、入学式のあとの飲み会には参加できなかったので、今回の合格祝いの集まりをそれなりに楽しみにしていたけれど、浮かれていられないと気を引き締める気持ちになっていた。
その反省会で、松山が間違った問題は、「コジュケイの1日当たりの捕獲上限数は」という問題で、回答は五羽であったが、それを三羽と思い違いしていたことがわかった。
また、柴山が間違ったのは、カモ類の判別だった。シカやイノシシの対策ばかりに目を向けていたことから、鳥に関する問題で二人とも躓いていたことになる。
山里は、受かって満足するだけでなく、周囲に教えられるくらいの確実な知識をもつようにと言っていた。
一応の反省会を済ませると、仕事から戻った松山の父親を交えて、大宴会となったが、四人は、これまでの受け身の学習姿勢から、積極的に学んでいこうという姿勢に変化していかなければならないと、今回の件で意識するようになっていた。
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