第3章 入学 第22話
その次の週も、武井が担当して、実際にワナを作る作業から講義ははじまった。踏み板は、先週の講義で、全員が良いと選んだお弁当箱タイプを使うこととし、ワイヤーでくくり輪を作ることになった。
使うのは、直径四ミリメートルのワイヤーで、まずは適当な長さでワイヤーを切断するところから作業をはじめたが、大きなカッターは使い慣れないとなかなか上手く扱えない。四苦八苦しながら、くくり輪用とアンカー部用の二本を各人が用意した。
設計図はなし。先週見たワナを見よう見まねで作ってみたところで、踏み板にセットしてみることにした。
すると、松山と瀬名のワナは問題なかったが、柴山と後田のワナは、くくり輪側のワイヤーが短すぎて、踏み板の外周の長さに足りておらず、なんとかはめることはできるのだが、設置しにくく作業性が悪すぎる代物だった・・・。
「失敗した!」
「俺もだ・・・」
肩を落とす二人を横目に、松山は「俺のはバッチリだ」と自慢げな声をあげていた。
瀬名は、言葉にはしなかったが、狩猟経験のある二人にできなかったことができて、嬉しい様子だ。
すると講師の武井が、松山のワナを作動させてみようと言いながら床に置かせて、松山に水の入ったペットボトルを渡した。
「膝くらいの高さから、真っ直ぐ落としてごらん」と声をかける。
松山が言われたとおりにやってみると、ワナがはじけてくくり輪がペットボトルを締め付けた。
ところが、武井がそのペットボトルを持ち上げると、締まったはずのくくり輪がスルッとペットボトルから抜けてしまった。
「あれぇ~・・・」
何が悪かったのかわけが分からないといった様子だ。
「バネは、完全に締め込まないと、こうなる」と、武井の冷静な声が告げる。
「そっかぁ・・・。これじゃ、シカに逃げられたな」
さっきの自信に溢れた声とはうってかわった情けない声だった。
次に瀬名のワナを同じように作動させると、こちらは完全にペットボトルを締め付けている。
「やった。私のワナは完璧」
「設計図がなくても、各部の部品がどのように動くのか、どんな配慮が必要なのかを、実物から見抜くことも重要だよ。原理は簡単なだけに、余計に気をつけてみないと、せっかく設置したワナが可動しないということになってしまう。そうなると、時間の無駄、労力の無駄となってしまうからね」
「はい」
男子三人は、各人の失敗が、捕獲現場では致命的であることを指摘されて、力無く下を向いてしまった。
「おいおい、そこで凹んでたら、シカは獲れないぞ。今は失敗して良いときだから、気にせずに。でも、現場では慎重に」
励ましてくれているのだろうが、どうも傷口がしみるのはなぜだろうという感じだった。
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