第3章 入学 第17話
山里に言われて、四人のこの分野での立ち位置が明確に示されたことになる。そのうえで、兵站を担ってくれるのが、この専門学校の講師たちなのだろうということもわかる。
その実力次第で、ここで育成されることになる我々は単なる狩猟者、ハンターではないことがわかる。
職能的捕獲技能者という言葉を使った講座を聞いたことがあったが、いかにもまどろっこしい。もっと自分たちの求める姿を端的に現す言葉はないだろうか。
柴山たちは、共通してそんなことを考えていた。
「なぁ、俺たちが目指すのって、ハンターじゃないよなぁ」
「あぁ、違う」
「俺たちの目指すものを示す言葉ってないのかななぁ・・・」
「そうね。私たちって、これまでにいない存在なんだって主張しても良いかも」
それを受けて、山里が答えた。
「間引くことを、cullingというから、cullerという言葉を使っている人もいる。我々は、海外で職業を聞かれると、pest controllerだというと理解してもらえるけれど、どちらも日本じゃ馴染みのない単語だな。
君たちが目指す目標となる職業を表す言葉が考えられると、学校のキャッチコピーにも使えそうだな。面白い、今日の残りの時間は、それを考えようじゃないか」
そんな脱線して良いのかと思いながらも、学生四人が知恵を絞りあっていろいろな言葉を思いつくままに口にした。
そのひとつひとつを山里がホワイトボードに書き込んでいくが、どれも今ひとつといったところだ。
マタギという言葉に男子三人はこだわっていたが、どうも響きが良くない。それにマタギは狩猟を専業とするイメージが強い。我々が目指そうとしているのは、狩猟をベースにした新たな捕獲従事者だ。
最初に候補にあがった「pro hunter」も「hunter」から抜け出せていない。
「JOB HUNTER ってどう」
「おぉ、良いんじゃないか」と男子三人は同意している。
「ちょっと待て、それだと『求職者』という意味になるぞ。音は良いが、仕事を求める者っていうのもなんだかなぁ・・・」と山里が言った。
逆に「HUNTER JOB」とすれば、「狩猟仕事」となるが、これは音も意味もいまいちというところだ。
いったんは盛り上がったが、時間切れとなり、今後の課題として残されることになった。
それでも、提案した瀬名にしてみれば、「なかなか良いと思ったんだけれどなぁ」と残念そうであった。とはいえ、やはり「hunter」からは抜け出せていない。
狩猟をベースにしたのだから、「hunter」から抜け出す必要は、必ずしもあるとは言えないだろう。
「deer hunter」、「beast hunter」、「wild animal hunter」といろいろと候補はあがったが、なかなか良い言葉が出てこない。コピーライターという職業が成立する理由が良くわかる。
最初の授業の印象は、思った以上にアットホーム感というか、少人数であったために講師との距離が近いというところであった。
解剖学では、獣医師である米山さんが担当であった。狩猟学も、予想どおりワイルドライフマネージメント社の黒澤部長さんが担当であることがわかった。
狩猟関係法規の担当は、弁護士で狩猟者でもある山田さんが担当であることが、この日一日で判明し、ようやく講師との顔合わせも終わったところで、授業二日目が終了した。
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