第3章 入学 第6話

 その日の晩、松山の家に集まって話をすることになった。これは、柴山が特に松山の父親に興味をもったため、急遽持ち上がった集まりであった。


 瀬名は、アルバイトがあるからということで、急な集会への参加が難しいこともあったが、柴山と後田は松山に連れられて、彼の家を訪問した。


 松山の家は、江戸川近くにある平屋の一軒家で、父親が大工ということもあって、自分で建てた家だとのことだった。


 家に着くとすぐさま、玄関に松山の父親が迎えにでてきた。


「おぉ、良く来た。ささっ、遠慮せずに上がって上がって」と柴田と後田を招き入れた。松山は、自室で着替えると二人が待つ居間へと向かった。


 すでに、二人は父親に対しての挨拶は終わっているようだったが、桶に入った寿司やビールの山を見て、どうしたものかと座らずに立ち尽くしていた。


「急に健二が連絡してきたもので、今日は、母ちゃんが夜勤でお構いできないから。出前物で申し訳ないけれど、三人の入学祝いだ。ささっ、座って。遠慮無く食べて、飲んでいってくれ」


「はぁ、ありがとうございます。でも、僕たち突然お邪魔してしまって、なんの用意もしてなくて・・・」


「そんな遠慮はするな。今日から健二の同級生だろう。二人は大学からの同級生だと聞いていたから、早く健二も仲間として受け入れてもらえたらと思ってだから、遠慮せずに」


「はい。ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします」


「でも、ご馳走になったのでは、申し訳ないので、会費を取ってください」


「そんなかしこまるな。こりゃお祝いだ。だまって受けるのが筋ってもんだ」


 職人の父親とすれば、息子の同級生にそこまで遠慮されるのが、なんとなく距離を置かれているようで、ちょっと強く押し出してきた感じの言葉だった。


 柴山も後田もそのあたりの呼吸はつかんでいる。決して空気が読めない学生ではない。


「はい。そこまで言っていただけるのでしたら、遠慮なくいただきます」


「ごちそうさまです」と声を上げたのは、実家から離れている柴山だった。


 後田は、同じアパートにいながらも実家が近いことから、時々母親が料理を作りに来たりしているらしい。


 普段の食生活を考えれば、柴山にとっては、目の前の寿司は、もう最高の御馳走であることに違いない。

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