第2章 迷走 第40話

 次は、「教習資格認定申請」となる。前の「初心者講習」は座学だが、これは「実技」となる。実際に本物の銃をここでは扱うことになるので、警察に提出する書類も一気に増える。


「教習資格認定申請書」「経歴書」「同居親族書」「写真二枚」「身分証明書」「専門医の診断書」「戸籍抄本及び住民票」「講習終了証明書」「印鑑」「申請手数料」。こうなると、書類に慣れていない人ではもうギブアップだろう。


 学生ならではのフットワークが、こういう時には生きる。もし、社会人だったら、この書類を揃えるためだけに数日の休暇を要するだろう。


 出前試験を日曜祭日でも実施している狩猟免許試験とは大違いで、土・日曜日には警察は書類を受け付けてくれない。時間が豊富に使えるのは学生の特権かも知れない。


 この段階で、最寄りの交番から警察官が家庭訪問にやってきた。これは、後田の所持の段階で隣人として柴山が対応したこともあり、ある意味経験者であった。


 近隣住民への聞き取りでは、後田が隣人として警察官に柴山の人物について答えたのは、お返しのようなものであった。


 資格が認定されるまで、約一ヶ月間必要だったが、その間に後田について狩猟現場を見学しながら、どんな銃を購入するかいろいろと先輩狩猟者からアドバイスを受けることもできた。


 先輩らは、狩猟をやめるという年配の狩猟者の銃をもらえばいいと言ってくれたが、山里が『スキートで練習する』と言っていたことから、スキートにも狩猟にも使えるものと思って、後田がお世話になっている銃砲店で上下二連のスポーティングという銃を購入することにした。ここでも、後田の経験が役立った。


 教習資格認定書ができたと警察から連絡があり、それを受け取りに来る時に、教習射撃で使う「弾」を購入するのに「猟銃用火薬類譲受許可申請」をする必要があるので、印鑑と手数料を持参するようにと言われた。


 ここまでに警察に足を運んだ回数は、すでに四回である。


 必要な書類を受け取ると、教習射撃を実施してくれる射撃場へ受講を申し込むことになる。教習射撃は言い換えれば実技試験のようなものである。


 自動車教習場と同じと考えればわかりやすい。


 教習射撃は後田が受けた射撃場に申し込んだ。講習当日は、後田が親父さんの車を借りてくれて、一緒に射撃場までついてきてくれた。


「なんか緊張してきた」


「大丈夫、大丈夫。でも、一発目ってスゲェ緊張した」


「スキートで三枚、トラップで二枚命中すれば合格なんだよな」


「あぁ、両方でって言うのじゃなく、どちらかの種目でということだけれど、大抵はトラップでやるみたいだいな」


「そうかぁ。ところで後田はどのくらい命中したの」


「俺は、トラップで十一枚だった。まぁ、講師の言うとおりにやれば大丈夫だよ。それに講師は警察官じゃないから、腐すようなことは言わないから」


「えっ!そうなの」


「あぁ、警察官は手続きについては知っていても猟銃の使い方は知らないよ。だから銃砲所持者の中から射撃指導員っていう人が指定されていて、その人が指導と試験をしてくれるんだ。しっかりと安全な取り扱いや撃ち方を教えてもらえるから、ほぼ全員が合格するって」


「そうなのか。俺はてっきり、警察官がやると思っていたよ」


「まぁ、気楽に頑張ってこいや」

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