第2章 迷走 第36話
父親が会社から戻るまで、強弱はあれども母親からのマシンガントークは続いた。夕食は、母親と向かい合わせで食べたが、どんな味かもわからない状況となってしまった。
父親が帰宅すると、母親が開口一番に「お父さん、正也が会社の内定を辞退しちゃって、専門学校に行きたいって。もうどうしたらいいの」とややヒステリックに叫んだ。
玄関で靴を脱ごうと前かがみになった父親の頭上を、母親の言葉が飛び越していく。
「うん?どういうことだ」
正也は、着替えが終わって、居間のソファーに座った父親に対して、ことのいきさつを説明し、「どうしてもその学校で勉強したいんだ」と訴えた。
「なるほど。それで、学校の後輩には迷惑がかかることはないんだな」
「うん、社長さんはそう言ってくれた」
「残る問題は、母さんということか」
「お父さん、私が問題ってどういうことよ。問題は、こんなことを相談もせずに決めてきちゃう正也でしょ」
「確かに、それは問題だ。でも、いまさら内定の辞退を辞退しますってわけにもいかないだろう。それに、本人がどうしてもっていえば、たとえ無理に就職させても直ぐに辞めてしまうのがオチだ。だから現状で一番良い解決方法を考えるべきだろう」
「そうですけど、それで私が問題だなんて・・・。私だって正也がやりたいというなら応援してあげたいけれど、将来的にそんな学校で就職だとか大丈夫なの」
「母さん、そんな学校なんて言うなよ。俺は、そこでなければって思って決めたんだから・・・」
「そうね。そんななんて言いかたは良くないわね。でも、お母さんの心配もわかるでしょ」
「うん、それは・・・。だから、頑張る。これまでの大学生活って、なんとなく皆と一緒にやっていれば良いって思って就職まで決めてきたけれど、それと今回はまったく違う気がしているんだ。
本当にやってみたいっていうか、他の人が先にやるとしたら、その方が悔しい。最初だからこそ、自分でやってみたいって思ったんだ」
そして、父親からの一言で、両親の説得は終了した。
「正也があと二年、我が家の不良債権となるわけだ。しっかり勉強して、結果を残せよ」
母親もその言葉を聞いて諦めがついたようだったが、悔しかったのだろう「じゃ、今日から節約しないと。お父さん、今日から晩酌は無しですから」と宣言した。
「おいおい、今日は正也の新しい進路が見えたわけだから、お祝いしようよ」
そんな言葉のやり取りで、家族の間には笑みが残った。
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