第2章 迷走 第28話

 家に戻ると、すぐさま両親に「俺、大学院へ行くのやめた。その代わりに専門学校へ行く。大学院と同じくらいお金が必要だけれど、どうしてもその学校へ行って学びたいんだ」


 そう言う啓太に対して、母親は「せっかく合格した大学院なのに、どうして専門学校なの」と納得できない様子だった。


 両親の世代では、大学院に進学する学生はそんなに多くはなかった。それだけに、息子が大学院に進学すると言ったときには、我が子ながら誇らしく思えた。


 一方、専門学校というと、高校から大学へ進学しなかった同級生たちが、手っ取り早く手に仕事をつけようと思って行くところだという認識があって、大学を卒業して大学院に入学が決まっている息子が行くべきところじゃないという感情的な物差しも入って、なかなか良い返事を引き出せなかった。


 母親は、幼い頃から頭が良くて、小中学校でも勉強のできる子と言われていたし、本人もその自覚があった。


 しかし、姉弟が多く、高校に入学した段階で、大学進学を諦めていた。


 そんな生い立ちのこともあって、我が子には高等教育をという思い入れが強い傾向があるのだろう。


 息子の話は、頭では十分に理解できる。でも、本当にそのような仕事で将来食べていけるのだろうかという危惧を拭えない。


 できれば、研究者として身を立てて欲しいとも思うし、就職するのであれば公務員や安定した企業にとも思ってしまうのだ。


 母親とすれば、当然の思いではあろうが、「やる気スイッチ」が入った若者を止めることなど、そうそうできることではない。


 柴山も、ここは踏ん張りどころと思って、言葉を続けた。


「その学校は、確かに高校卒業して入学してくる学生もいるけれど、四年制の大学を卒業してから一年に入学してくる人もいるし、社会人経験のある人も入学していて、三世代というか、年齢の違う学生がいるんだよ。


 それに、俺の場合は、一年生からではなくて、三年生に編入学できるわけだから、大学院に行くのと同じなんだよ」


「そうかも知れないけれど・・・。ハンターになる勉強でしょう。だったら、学校じゃなくても良いんじゃないの」


「それは、もう話したじゃないか。確かに狩猟でも学べることもあるけれど、それは趣味の狩猟なんだよ。


 その学校ならではの学びがあって、それこそがこれからの獣害対策に必要な技術なんだって。


 例えば、ワナでも最近はコンピュータを使ったりして、新しい捕獲システムを開発しているような会社もあるんだよ」


「そうかも知れないけれど・・・」

 母親との話は、堂々巡りである。

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