第2章 迷走 第16話

  山里とのこれまでの話を振り返ると、何もかもが合理的であることに気づく。


 お昼をサンドイッチにしたことも、食べながら話そうということすら、合理的に考えた行動のように思えてくる。


 後田は、大いに納得しているようであるが、自分の知らない世界の話で盛り上がっている状況はあまり面白いものではない。


 しかし、狩猟グループに所属していて実際の現場にいったことのある後田でさえ、気づいていなかったことなのだ。まだまだ、その差は僅かでしかない。


 合理的に狩猟について学ぶことは、必ずしも捕獲現場だけではなくて、このような会議室の中での話しであったり、射撃場での練習であったりするわけである。


 さらに、科学的とも言える銃の性能の話などからは、現場で用いるべき装弾の種類について学ぶことができる。


 初心者は、最初に言われた情報を信じるしかないが、その情報が正しいかどうかを疑ってみる必要があるのかも知れない。


「じゃ、後田君の話題は、一旦終了して、今度は柴山君ね」


「はい。ありがとうございます。あのぅ~、専門学校のことを聞きたいのですが。授業料や願書のことなどがわかればありがたいです」


 途中で、後田が「えっ!」という反応をしているのに気付いたが、構わずに続けた。


「ぜひ、入学して、先生のところで学びたいと思っています」


「そう、入学する気になってくれているんだ」


「柴山、大学院に行くんじゃなかったのか」


「あぁ、やめた。俺は、ここだ」


「じゃ、俺も・・・、かな」


 坂本竜馬と千葉道場の若先生が、勝海舟を斬りに行った時、勝海舟の話に引き込まれた竜馬が、「弟子にしてください」と申し出て、若先生までもが弟子入りしてしまったという話を本で読んだことがあったが、さしずめ柴山が竜馬で、後田が若先生っていうところだ。


「了解。じゃ、ちょっと待ってて。専門学校のパンフレットがあるから、それをあげるので検討してみて」

 山里は、また会議室を出て行った。


「おい柴山、お前本気なの」


「あぁ、もう決めた」


「大学院はどうするんだよ」


「俺がやりたいのは、爺ちゃんの畑を守れるような仕事なんだ。このままでは、野生鳥獣被害対策は進まないし、ここでならこれまでにないことを学べるって感じたんだ」


「そうかぁ、俺も実はそんな気がしているんだ。あんなシーンを見せられたうえに、まるで後ろで俺が外したところを見ていたかのような話を聞かされちゃ、もうここしかないかなって・・・」


「そうだな。じゃ、一緒に入学するかぁ」

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