第2章 迷走 第12話
「後田君、撃った時、銃床に頬っぺたはしっかりついていたかな。それから、シカの動きにあわせて銃をスイングして撃ったのかな」
山里は、サンドイッチを置くと、右手の手のひらを右頬に当てながら指先を鉄砲にみたてて、右から左にスイングする仕草をしながら聞いてきた。
「え~と、頬っぺたはついていたと思いますが、良く分かりません。銃はシカにあわせてスイングしていました」
今回は、ジェスチャー付きだったこともあって、分からないところはなかった。ここは口をはさまずに聞いていよう。
「うん、わかった。初心者で銃床に頬っぺたが付いていたかどうかなんてわからないよね。
大抵は、シカばかり見てしまって、銃床は頬っぺたにつかないのね。そうなると、こうなっちゃうんだ」
と言って、山里は右頬に付けた右手を頬から少し下げて見せた。すると銃口を真似ていた指先が上を向いた。
「銃口が上を向いたろう。だから初心者は、上を撃ちやすいということなんだ。逆に立ち止まって油断しているシカを撃とうとして、しっかり狙った時には、ガク引きといって引き金を引く瞬間に力が入って銃口が下を向いてしまう失敗が多くなるんだよ。
猟期前の練習で、標的紙の手前の地面を撃っていた人がいたんじゃないかな」
「あっ、そうです。年配の人で、やたらと手前の地面を撃つ人がいて、みんなから力を抜けっていわれていました」
「それから、走っているシカに向けて銃をスイングしながら撃ったということだけれど、周囲にというか、シカと後田君の間に木は生えてなかったのかな」
「ありました。そんなにシカとの距離があったわけじゃないですが、僕とシカの間には木があって、その木と木の間をちらっちらっとシカが抜けていく感じでした」
「そう、そうすると、ほとんどの弾は木に命中しちゃったかも知れないね。
シカを撃とうと思っても木が邪魔して、なかなか引き金を引けなかったでしょう。
それに引いた時には、実はスイングが停まってしまっていることが多いんだよね」
「そうかも知れません。最初に撃った弾は、目の前の木の幹に当たったみたいで、木の皮が飛び散りました。あとはもう何がなんだか・・・」
「最初は、そんなもんだよ」
「はぁ・・・。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます