第2章 迷走 第11話

「うちは、現場にでる前に最低五百発の練習はさせているよ。後田君は、猟期前に二回練習に行ったらしいけれど、おそらくスラッグ射撃を練習したのかな」


「はい、そうです」


「あとは、残弾処理だけれど、これもやはりスラッグ射撃だったのかな」


「はい、実は九粒がかなりあって、まだ沢山残っているので、三百発も撃っていません」


 スラッグ射撃だの、九粒などと、ここでも分からない単語が飛び交っている。スラッグ射撃ってなんですか。九粒でなんですかって聞きたいけれど、なんとなく恥ずかしくて、うんうんと曖昧な相槌で誤魔化してしまおうとした。


「柴山君は、スラッグ射撃とか九粒とかいうのは分かるのかな。もし、分からなければ、聞いてね」


 見破られた・・・。一気に、耳の先まで赤くなってくるのを感じた。自分で見ることはできないが顔まで、きっと真っ赤っかだろうと思った。


「はい、すみません。わかりません」


「謝らなくていいから、分からなかったら遠慮なく聞いてね」


「はい、ありがとうございます」


「ますスラッグ射撃っていうのは、一発弾で五十メートル先の紙の的を撃つことで、この一発弾をスラッグ弾ていうのね。それから九粒っていうのは、散弾ってわかるかなぁ。バーンて一回撃つと、パチンコ玉くらいの弾丸が九粒飛び出す弾のことね」


「はい、わかります。以前、後田君から九粒については、聞いたことがあります。彼が今年の狩猟期間中にシカを九粒で撃ったけれど外しちゃったって・・・」


「そうなんだ。残念だったね」

 今度は、後田が顔を赤くしている。


「はい、そうなんです。ちょうど先生が講座で見せてくれた映像と同じような状況で、九粒を撃ったんですが、まったく当たらなくて・・・。それで、先生は四頭も獲っているものだから余計に・・・」


「うん、残念だったね。それで、後田君はどこを狙って撃ったのかな」


「えっ、シカを狙って・・・」


「うん、シカのどこを狙ったの」


「シカの・・・」


「あぁ、ごめんね。初めてじゃ、無理もないよね。おそらく、後田君はシカを狙って撃ったのだろうけれど、それだとシカの後か上に弾は行ってしまって外れたんだね」


「えっ、なんでそんなことまで分かっちゃうんですか」


「それはね初心者が犯しやすい失敗だからで、必ずしも後田君がそうなっていたとは断定できないけれど、おそらくは同じ失敗をしていたと思ったからだよ」


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