第1章 出会い 第2話

 司会者役の学生から、本講座の目的と簡単な講師紹介が行われた。


 講師は、東京に事務所を構える株式会社に勤務している研究員で、狩猟歴二十五年というベテランハンターであった。


 講座の冒頭で、講師から「今日の講座では、パワーポイントを使いますが、途中でシカやイノシシを殺すシーンがあります。


 不愉快に思われる方もおられるかと思いますが、そのような画像が入る前には、お知らせしますのでご承知おきください」という説明があった。


 ザワザワとした会場の反応を確かめるように見回した後、講師はゆっくりと話を始めた。


 導入部分は、これまでにも他の講座でも聴いていた野生鳥獣による農林業被害の状況やその対策の基本的な考え方についての説明であった。


 一般開放されている講座であっただけに、大学生ばかりでなく、社会人や研究者に混ざって、本学への進学を考えている高校生も含まれており、その高校生にも十分理解できるように噛み砕いた説明は、大学生や研究者にとっては少々物足りないくらいの内容のようにも感じた。


 普通であれば、このあとはシカやイノシシの生態についての説明となるのがこれまで何度か経験してきた講座での通例であったが、今回はここからが違っていた。


「稲作は弥生時代からはじまったとされていますが、お米の栽培は人口の増加につながりました。


 というのは、イネは凄く優秀な植物で、今の品種では一粒のお米の種子から千粒のお米が収穫できるんですね。お茶碗一杯で約四千粒ですから、元はわずか四粒の種子で良いことになります」


 会場からは、「へぇ~」という声が漏れる。


「人口増加にともなって、新田の開発などによって野生動物との接点が増え、鳥獣被害が発生しました。実は、農耕が始まる前から、食糧を奪い合うという競争は存在していて、人類と他の野生鳥獣との軋轢は、ずっとずっと昔からあったんです」


 柴山の頭の中には、マンモスを追いかけて狩る原始人の姿が浮かんだ。漫画に出てくるような骨付きの肉を塊でほおばるようなシーンだ。


 もっとも、軋轢と言うからにはより好戦的な意味合いをもち、けが人を出しながらも石器を使って、マンモスを仕留める原始人たちや、仕留めたマンモスの肉を切り分けていると、血のにおいに誘われて、空からはコンドルのような猛禽類が、また周囲の草むらにはサーベルタイガーのような肉食獣が集まってきている様子の方がイメージ的には正しいのかもしれない。

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