第4話

 


 梢のマンションでテレビを観ながら待っていると、程なく酔っ払った梢が帰ってきた。


「きつい。ね、脱がして」


 梢は帯揚げをほどきながら寝室に直行した。


「はいはい」


 誠は着物を脱がせると、衣紋掛けに掛けた。ベッドに横たわった梢は、結った髪からUピンを外していた。


「誠っ。B型のあなたにはね、A型の私しか合わないの。分かってるの?」


 眠そうな目をした梢は、口だけは元気が良かった。


「分かってるよ」


「よく言うわよ。ちょこちょこ浮気してるくせに。私が知らないとでも思ってるの?」


「……してないよ。惚れてるのは分かってるだろ」


「……嘘つき……ぺてん師……詐欺師……眠い」


 梢は鼻息を荒くしながら眠りに就いた。誠は布団を掛けてやると、静かにドアを閉めた。



 数日後、みゆきの様子を見に行ったが、不在だった。


「――もう、大変な売れっ子で、今も昼間っから指名客とデートです。……あの子、がんばり屋さんですね。来てすぐの時にナナが、『篠塚さんのスカウトだからって偉そうにすんじゃないわよ。私だって篠塚さんにスカウトされたんだから』って、例の調子で。そしたらあの子、『一緒にけっぱるべ』だって。そしたら、『プッ、訛ってんじゃん』って言ってケラケラ笑ったあと、ナナは反論せずおとなしくなりました。あの子、大したもんです。ナナを追い越す勢いですよ」


 おばちゃんは自慢気にみゆきの話をした。


「ほう、そうか」


 誠はみゆきに感心した。


「……それと、あの子が、いつ篠塚さんに会えるかって聞くから、近いうちに会えるよって返事しちゃったんですよ。たまには会ってもらえませんか」


 おばちゃんが手をわせた。


「それは構わないが、何時頃なら会えるんだ?」


「そうですね、昼前には皆を起こすようにしてますので、一時以後ならいつでも大丈夫です。今日みたいに昼前からデートなんて滅多にありませんから」


「分かった。じゃ、電話するよ」


「ありがとうございます。……あの子、かわいいもんだから」


「分かってるよ。じゃあな」


 誠は何だかくすぐったかったが、若い子に思われて悪い気はしなかった。



 翌日、待ち合わせ場所をおばちゃんに伝えると、少し遅れてその喫茶店に行った。


 数名の女性客の中から直ぐにみゆきを見付け出すことができなかった。その中で一番、目を引いた女がみゆきだったのは意想外だった。


 みゆきは窓辺にやっていた顔を誠に向けると、ニコッとした。このニコッがなければ、ずっと気付かないままだっただろう。


 上手にメーキャップして、流行りのファッションに身を包んでいた。たった数日で垢抜けして、見違えるほどになっていた。


「……みゆきちゃんか?」


 取り敢えず確認すると、みゆきは笑顔で頷いた。


「……へぇー、きれいになったね」


 誠はまじまじと眺めた。


「篠塚さんに会えるがら、念入りにオシャレしたの」


 訛りは相変わらずだった。イメージダウンの嫌いはあるが、このギャップが逆に客に受けるのかもしれないと誠は思った。


「あ、コーヒー」


 注文すると、ウエイトレスが置いたコップに口をつけた。


「頑張ってるそうじゃないか」


「篠塚さんに会わせでぐれるっておばぢゃんが言ったがら、けっぱれるの」


「ああ。たまにならこうやって会うことぐらいはいいさ」


 誠の言葉に、みゆきは嬉しそうな顔をした。


「おいは篠塚さんのだめならどんたごどでもでぎる」


 真剣な目で見た。


「それは嬉しいが、俺のためじゃなく、自分のためにしなきゃ。アパートを借りて、自分の城を持たなきゃな。そのために頑張って、早く自立することだ。な?」


 みゆきはゆっくりと頷いた。

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