第125話 プロの怖さ

後藤「なかなかトリッキーな相手であったがよく頑張った。次の対戦相手は知っての通り札幌ホワイトロックだ。」

佐倉中央のメンバーは固唾を飲んで話を聞いている。

後藤「プロのチームは情報が手に入れやすいがその分実力は圧倒的に上だし、身体能力は比にならないだろう。しかし、一発勝負というものは非常に精神面でプレッシャーとなるし、油断しているところを突けば勝ち目はある。」

吉沢と広瀬は選手にプリントを回した。そこには選手一覧やポジション、フォーメーション、得点や失点のパターンも書かれていた。

後藤「今貰ったプリントを各自よく読んでおくこと。それと、説明が遅くなって申し訳なかったが、イエローカードには注意してほしい。累積2枚で次の試合に出場が出来なくなる。真希と千景は今後気をつけてほしいが、かといって消極的なプレーは避けてほしい。」

二人は黙って頷いた。

ホワイトロックの最も注意すべき選手には名前の横に二重丸が付いていた。FWの薗部和歌(そのべわか)は国内屈指の左足を持ち、そこから放たれるシュートは弾いたGKの手の骨を折ったという逸話も存在する。

後藤「とにかく、対策できる期間は1週間しかない。体力的に厳しいかもしれないから明日はビデオ研究として明後日から練習を始める。」

家に帰るとつかさは楓に電話をした。

楓「そっか、まずはおめでとさん。次はホワイトロックやったな。」

つかさ「うん、薗部さんが危険って言われてるけど本当なの?」

楓「それは知っての通りや。GKの子には可能な限りシュートを止める面積は広くさせな。アマチュアが片手で止めようもんなら腕持ってかれるで。撃たせないのが一番、間近でブロックが2番、間違ってもヘッドはせんほうがいい。プロでも脳震盪おこるぐらいや。」

つかさ「そうなんだ。明日はビデオ研究だからその時にみんなに…」

楓「やめとき。ウチに教わったと言いふらすのはウチだけじゃなくてつかちゃんにもデメリットばかりやから。説明するんだったらビデオ見た後に自分がそこで初めて気づいたという風にしとき。」

つかさ「分かった。気をつけるね。」

楓「それと、ホワイトロックが尖ってるのは薗部だけちゃう。ユースから昇格したCBの裏川流美(うらかわるみ)もかなりできる。吉良と組むとほんまに厄介や。二人で攻撃陣を殆ど抑えられると言っても過言ちゃう。」

つかさ「そうなんだ…。何か対策はないの?」

楓「あるにはあるけど、来るかも分からんし、かなり博打撃ちで1回しか使えんと思う。それでもええの?」

つかさ「うん、お願い。」

楓「分かった。まず、シチュエーションは…」

翌日のビデオ研究で、つかさは昨日楓に言われた気づいた点を挙げた。

つかさ「やっぱり、できる限り薗部選手にはシュートを撃たせないのが一番だと思います。ブロックだけでなく、しっかりマークに付くのが一番いいんじゃないかと思います。」

吉沢「DFの枚数を5枚にして守備に回すのがいいかもしれないね。」

広瀬「得点を取らないことには、120分間我慢し続けるってことだろ?今後を考えると少しリスキーじゃないか?」

後藤「広瀬の言う通り90分で勝負をつけたいところだな。高校生がプロチームから得点する機会で多いのはセットプレーやカウンター。特にカウンターはセットプレーにも繋げやすいから大事にしていきたいな。」

話し合いを踏まえた上でポジションは固まりつつあった。4-4-2で守備を固めて一気にカウンターに入る作戦をとることを基本的な戦術として、できる限り90分で決着をつけるチャンスを増やすようセットプレーも重点的にトレーニングした。

週末、両チームは仙台の会場に集結して相見えた。佐倉中央のスタメン・フォーメーションは以下の通り。

GK:1 愛子 DF:5 真帆 MF:11 千景

DF:14 樹里 MF:6 萌 FW:9 梨子

DF:3 雛  MF:8 仁美 FW:17 つかさ

DF:4 美春 MF:13 柚月


     梨子     つかさ


         千景 C


   仁美     萌     柚月


美春    樹里     雛     真帆


         愛子


札幌のフォーメーションは以下の通り。


          薗部


   ○    ○    ○    ○


           ○


  ○    裏川     吉良    ○


         一ノ瀬 C


千景と一ノ瀬は審判団とお互いに握手をした。

一ノ瀬「君たちの活躍は知っているよ。だからこそプロとして本気で行かせてもらうよ。」

千景「私たちの強さと勢い、身をもって思い知って下さいね。」

主審「両チームフェアプレーで、且つ熱い試合にしましょう。宜しくお願いします!」

円陣に戻ると千景はいつものようにチームを鼓舞する声をかけた。

千景「いい?相手はプロチーム。めちゃくちゃ強い。正直、私は怖い。でもさ、ここで勝ったら物凄くカッコいいよね!じゃあ勝とうよ!最後まで気を抜かず、弱気にならずに行こう!レッツゴー!佐倉中央!」

「おーーーーー!!!!!」

一ノ瀬「何点でも取ってもらって構わない。勢いはあるけど相手に飲まれないように行こう!勝つぞ!」

「ホワイトロック!!!」

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