第18話思わぬ展開

主審の笛が鳴る。日大船橋はビハインドを全く感じさせない力強いプレーで攻め上がってくる。DFで体をぶつけても全く怯まずにむしろぶつけ返してくる。

亜紀(なんつーパワーよ…。)

マヤ(一回の声かけでこんなに変わる?)

佐倉中央は段々と弱気になり始めてきていた。

大森『いいぞ!相手は引き始めている!今がチャンスだ!点を取ろう!』

日大船橋の攻撃はよりヒートアップした。たった5分間でシュートを11本放ったが、光や愛子がゴールを破らせなかった。その時、

後藤『相手のペースに飲まれるな!自分たちのペースで進めろ!』

光『そうだ!私達はリードしているんだ!もっと強気に行こう!』

後藤と光の檄で佐倉中央も目を覚ました。しかし、CKとピンチは続く。

飛鳥(上がってきたわね…。一番厄介なのが…。)

かれん(ここを凌いで、つかさちゃんに回せれば大きなチャンスにできる…。)

大森のマークは飛鳥、かれん、マヤが付いた。クロスが上がってくる。大森は一瞬タイミングをズラして完全にマークを外すと、ゴールに背を向けてバイシクルシュートを放った。そのシュートは愛子の真正面に飛んだので愛子は落ち着いてキャッチしてその場に倒れ込んだ。会場からはどよめきが起こる。

愛子(早くリスタートをしたかったけど、流石に倒れ込んだ時点でもう遅い。)

愛子はアンダーアームスローで飛鳥にボールを渡した。飛鳥はパスの出しどころを探す。

飛鳥(かれんに回してオーバーラップをするか、サイドチェンジで花に渡すか…。サイドチェンジはリスクが大きいか?ならこの1人を躱して…!)

飛鳥はスライディングに来たSWを躱してかれんにパスを出そうとしたその時、

大森『貰ってくぞ!』

大森が高い位置でボールを奪った。飛鳥はドリブルする大森に追いつき、ショルダーチャージでボールを取ろうとするも、大森は飛鳥を逆に吹っ飛ばした。

飛鳥(なんていうパワーよ…!)

大森は更に光と美春も吹っ飛ばして遂に愛子と一対一になった。

大森『くらいやがれ!』

大森は右足を振り抜いた。ボールは唸り声を上げながらゴール右を目掛けて飛んでいく。

愛子(やばい!勢いがありすぎる!なんとか弾き出せれば!)

愛子は思い切り左手を伸ばす。ボールは左手の中指の先端を掠めてわずかにコースが変わり、ポストに当たった。しかし、運の悪いことにバウンドしたボールは大森の目の前に。大森がこのチャンスを逃すまいとダイレクトで叩き込む。だか、光が大森と向かい合って同時にクリアのためにボレーをした。その瞬間、鈍い音がしてボールは大森の7m後ろに弾まずに落ちた。2人の強烈なキックに挟まれたボールは破裂をしたのだ。会場からは予想外の出来事にざわめきが起こる。主審はホイッスルを鳴らして試合を止めた。主審は両チームのキャプテンを呼び出して話をした。

主審『本来はドロップポールだけど、ペナルティエリア内でボールが破損したから佐倉中央のキーパーがボールを保持した状態からスタートします。』

光『分かりました。ありがとうございます』

大森『分かりました…』

大森は少しふて腐れた口調で答えた。大森側としてはせっかくのチャンスがまた一からやり直しになってしまったという遣る瀬無い気持ちになった。主審はある程度まで大森が下がったのを見届けて笛を鳴らし、ボールを愛子に転がす。愛子はボールを大きく蹴り出した。

愛子『キャプテン、助かりました。』

光『あれぐらい出来なきゃCBは失格と私は思ってるよ。愛子もよくギリギリでコース変えたな。』

一方、ボールは桃子が拾って梨子とパスを回しつつ前に進んでいた。流石は姉妹なだけあって、一糸乱れぬパスワークを見せていた。大森は先程のプレーを引きずっているのか、だんだんとフラストレーションが溜まっていくような感覚があった。

大森(私が取らなきゃまた点を取られるだけ…できるならこいつらを吹っ飛ばしてボールを取りたいがレッドカードを出されようものなら負けがほぼ確定する…。どうすればいいんだ…。)

そう思っているうちに桃子と梨子は軽々と抜き去っていた。会場からは歓声が高まる。

梨子『姉さん!決めて!』

桃子『よっしゃ!貰ったぜ!』

桃子はゴール上方にシュートを放ったが、林のスーパーセーブでコーナーキックとなった

林は大森に近づいた。その瞬間、大森の両頬を両手で叩いた。

林『大森さん!なんでそんな顔をするんですか!?いつもの大森さんの気迫はどこに行ったんですか!?こんなんじゃいつまで経ってもチャンスは来ません!だから!もっと日船らしく強気のサッカーをしましょうよ!』

大森はその瞬間、光が宿っていなかった目から虎の目に変わった。

大森『私は大きな間違いをしていた。このチームは、いや、サッカーは1人だけで成立することなんてあり得ない。だが私は自分1人で試合を作ろうとしていた。そんなのは無理に決まっている。林、それに気づかせてくれて本当にありがとう。この試合絶対に勝とうな』

林『はいっ!』

梨子がボールをセットする。中には紫色のユニフォームが6人、白色のユニフォームが8人。梨子は真ん中にいるつかさにクロスを上げた。しかし、林が飛び出してキャッチしたかと思うと、林はすぐに前にボールを投げた。佐倉中央は意表を突かれた。

大森(ありがとう林!お前の頑張りは絶対に無駄にはしない!このボールでなんとしても相手のゴールを揺らしてやる!)

大森はマヤと亜紀を抜き去り、光とマッチアップした。

大森(さっきは勝つことは出来なかった…でも今度は私が勝つ!)

大森は一瞬タイミングをズラして光を完全に抜き去った。

愛子(さっきまでと全然違う選手になってる…。どこにシュートを打ってくる!?)

先程は大森はペナルティエリアに入る前にシュートを放ったが、今度はペナルティエリアに入り込んできた。

愛子(ここまで来られたら前に出るしか!)

愛子が前に飛び出してきたとたん、大森はニヤリと笑い、ボールの下を爪先で蹴った。

愛子(え?ループシュート!?)

愛子は慌てて手を目一杯上に伸ばすが届かない。ボールはゴール中央に吸い込まれた。

大森『よっしゃあぁあぁあ!!!!!』

大森は拳を振り上げながら観客席にアピールした。前半27分、日大船橋はついに同点に追いついた。愛子はゴールからボールを拾って前に蹴り出した。

光『してやられたな。でも、まだ同点だ。大丈夫だ。』

愛子『まさかあそこでループを打たれるとは思いませんでした。』

飛鳥『いっそう気を引き締めないとね。』

美春『とりあえず、大森さんには最低2人はマークにつきましょう。最悪カードが出ない程度のファールで止めるのも一つです。』

主審の笛が鳴らされてつかさはボールを下げた。日大船橋は一気に押せ押せムードになってきた。守備などお構いなしで攻めてくる。

佐倉中央はボールをゴールに入れないようにするだけで精一杯になっていた。10分間で17本ものシュートを放ってきた。佐倉中央にとってこれほど辛い時間帯は無かった。前半38分、ゴールから28mほど離れた場所で日大船橋がFKを得た。キッカーはまさかのGK林。

会場がざわめく。林は左足を振り抜いた。ボールは高く上がり、大森を目掛けて落ちてきた。大森は合わせるかと思いきや、まさかのスルー。ボールはバウンドしてゴールに吸い込まれた。誰も予想だにしなかったゴールに会場は一瞬静まり返ったが、大森の喜びを皮切りに爆音が広がった。大森が林に駆け寄り、林を肩車して観客席にアピールをした。前半は1-2で日大船橋がリードして折り返した。

後藤『ほれ下向くな。日大船橋は強いな。だけどさ、うちほどじゃなくないか?全然気負いする程でもないし、1点差よ?取り返せるって。交代は無しで行くから後半絶対に2点取り返して勝とうよ。じゃ、光からも一言。』

光『簡単なミスを無くそう。そしてまずは一点取り返すために前にボールを出そう。そうすれば勝てるはず。』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る