第4話-2 迷子

「……お母さんか、お父さんはいる?」


「先に行っててって、お母さんが」


 彼は川満さんの質問に冷静に答えた。この口ぶりだと病院には母親と一緒に来たようだが、その母親が一緒にいないのは首を傾げざるを得ない。それに、お薬手帳だけを受付で出しても、その時点で薬局ができることは極めて限られる。患者への薬を準備するには、処方箋を出してもらわなければならないのが原則である。

 川満さんの手元にある彼のお薬手帳を覗くと、手帳の裏表紙には『与儀日向(よぎひゆうが)』という名前と生年月日が書かれていた。とりあえず誕生日から彼は五歳ということはわかったもが、保護者に連絡が付けられるような電話番号などは一切なかった。


「お母さんの携帯の番号もない……ちょっと困ったねぇ」


「呉屋さんに相談してきます」


 私は投薬台を離れ、調剤室の奥で散剤の予製(計量、混合などが必要な散剤や軟膏などをあらかじめ調整・作成した薬剤)を作っていた管理薬剤師の呉屋健司さんに声をかけた。


「ん? どうかしました?」


 一通りの状況を話すと、呉屋さんは店舗のさらに奥でパソコン作業をしていた新垣さんに何か声をかけた後に、待合室の日向君のほうへ向かった。

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