これから。

皐月泰汰

第1話 彼はまた、歩き始める

「君は何を見ているの?」

海のように澄み切った瞳で君は私に問う。

「わからない。何を見たいのかも」

そう言うと私は遠くの街並みを見つめる。

「あそこに行けば何かは見つかるかな?」

私は逆に君に問う。何をすればいいのかを。

「わからない。でも、見つかる可能性はあるよ」

「そっか」

私はこの言葉を聞き、重い腰を上げた。この時の私の瞳は灰色に濁っていた。

 何事にも興味がわかなかった。勉強にも。娯楽にも。恋愛にも。

生きている感じがしなかった。生きているという実感がなかった。ただ、毎日が何もなく過ぎていく。ぼーっと椅子に座り朝になれば目が覚め、夜になれば目を閉じ睡眠をとる。なんて生活を長く続けているとふと『旅がしたい』と思った。

思い立ったら最後、いつの間に家を出てちょっとした丘に来ていた。

周りを見渡す。周りには女の子が一人。どこから来たのか・・・?

どうやってここまで来たのか思い出せない。何も持たずここまで来たみたいだ。

とりあえず疲れたから休憩をとるため、芝生に座る。

私を見ていたのか、女の子も私の隣に座る。

「あなたはどこから来たの?」

女の子は私に聞く。

「・・・」

いきなり話しかけられ、私は黙る(というか無視する)。

「どこに行くの?」

女の子は懲りずに聞いてくる。

「わからない」

私は小さな声で答えると聞こえなかったのかまた質問を続ける。

「何をしたいの?」

「旅をしたい」

短く答える。

「そうなんだ。楽しそうだね」

「楽しいのかはわからない。とりあえずやってみる」

何故か、懐かしい気がしている。暖かいような・・・

不思議な感じがしながら話は進む。

「君は偉いね」

女の子は羨ましそうな顔をし、遠くを見つめる。

私はその言葉だけを聞き、また歩き始める。

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これから。 皐月泰汰 @yamadakanata

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