第14話警視庁特殊対策本部公安〝0課〟

「失礼します」

そう言って、警視庁ないにある部署の扉を開けて、二人の男が入ってきた。


「ああ、古林君、夏川君。待っていたよ」


「ご無沙汰しております。理事官」


「帰って来て早々すまないね。どうぞどうぞ、お二人とも掛けてくれたまえ」


「はい」

二人は一瞥して、ソファーに掛けた。

この警視庁内の一室は、公安から選りすぐりのもので結成された、マフィア組織対策本部の理事官室だった。


理事官の里崎治は、昨今の暴力団のマフィア化による犯罪の増加に伴い、特殊組織対策本部を設置する事となり、警視庁の各部署からピックアップした人材を配置し、特に公安の0課からは、このお墨付きの二人を里崎自身がこの部署に引っ張ってきたのだった。


警視庁のマフィア専門の対策部署と言う特殊な部署を作らざるを得ないほど

、現在の日本はマフィアンコミュニティに対し、危機感を持っていた。


だが、これほどのエリート達を持ってしても、大した成果をあげられていないと言うのが現状だった。


「理事官。今日はこれを見てもらいたくて、お持ちしました」

ベテランの方の古林は、スーツの胸ポケットから一枚の写真を出し、目の前のテーブルに置いた。


「ん、これは…」


少し驚いた表情を見せた理事官は、その写真を手に取り近くでマジマジと確認すると、また、テーブルに戻した。


「はい、これは30年前にマフィアンコミュニティを結成した当時のメンバーの写真です」


若手の方の夏川がそう答えた。


写真には、まだ10代かと思わせる若者の男女7人が写っていた。


「これはどこで…よく手に入れたものだ」


「はい。この写真ははじめの…いや、河名の実家にあったカメラのなかに納められていたもので、家族の許可を得て現象してもってきました」

そう理事官に答えた夏川の表情は、どこか悲しげに見えた。


「河名君か…夏川君、君は彼の無念を果たすためだけに…」


「いえ、それは違います理事官。河名は自分の道を進み、その道の先にあった穴に気づかなかった。ただそれだけです」


「そうだったな…」


「理事官。この写真の真ん中に座っているのが挫王聖で、その隣で挫王聖の肩に手をやっているのが真壁澪です」

古林は、写真を順番に指でさして理事官に説明した。


「こ、これが…あの真壁澪か…この20年行方を追ってきたが、どこに居るかどころか、素顔さえもわからないと言う始末だ」


「この写真を、0メンバー一人一人に配っておきます」


「ふむ…。しかし、この左端に映る色白のか細い青年は、とてもマフィアのメンバーには見えないね」

眉を潜めながら写真に映る1人1人を見て、確かに左端の者だけは不良には見えなかった。

他の6人は、野性味溢れる目をしているが、この色白の青年は、手に持ったビニール袋のなかに、飲み物のペットボトルがたくさん入っていて、その一枚の写真を見ただけでわかるように、そこに居た者の飲み物を買いに行っていたと推測される。

つまり、パシりなのかと。


「理事官。理事官はその青年をご存じない?」

古林は、入ってきた時よりも深刻な表情になって、里崎に問いかけた。


「ああ…んー、ないねぇ…」


何度か見返したが、里崎は心当たりはないようだ。


「理事官。その青年は、〝月光の会〟の一員です」


「な、なんだと!?」

その夏川の一言に、里崎はテーブルのお茶をこぼすほど、驚き立ち上がった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る