八話 筋肉を求めて、脚の神に願う
「ねぇ、これ一体何処に向かってるの?」
「ふむ…敢えて言うならば
「ニクってアンタ、これ完全に
どういう経緯かワタシ達は今、先程ミコトと激しい戦いを繰り広げた巨大なプテラ・サブラの背中に乗っている。
「問題無い。
「下級の魔物とはいえレベル45のユニークモンスターをレベル1で倒すなんて前代未聞よ。しかも何をするかと思えば餌まで与えて手懐けちゃってるし。」
あの後、落下するプテラ・サブラを受け止めたミコトはゆっくりと地面に下ろし介抱しながらワタシの出した豆をこれでもかっ!と与えていた。
最初は非常に嫌がってもがき苦しんでいたプテラ・サブラだったが、首を絞めながら満面の笑みで豆を掻っ込んでいくミコトの様子に観念したのか、今ではミコトの指先一つで素直に野道を歩んでいる。
「まさか
「貴様、さっきからレベルだのジョブだのゲームみたいな事ばかり言いおって…ゲームは一日三時間迄だぞ。」
「そんな事を言わせたいわけじゃないわよ!あのね、ホントは戦闘前に説明しようと思ってたんだけど、ミコト達勇者には世界により早く馴染んでもらう為にレベルやパラメーターが可視化出来るようになっているのよ。」
まぁ、勇者というかワタシ達の世界にある転移門を潜ってアースガルドが管理する異世界に向かう者は勇者だろうと女神だろうと誰でも漏れなく付与される祝福よ。
元から力が弱い者達が異世界で強くなる上で非常に心強い祝福ではあるけど、ワタシみたいな神々やそれに次ぐような強者の前では気休め程度の情報にしかならないからあまり信じすぎるのもどうかと思う。
レベルが一万を超えた辺りからは寧ろ相性や手札がより重要になってくるのでワタシはあまり信用していない。
ワタシ?ワタシのレベルはぁ…ヒ・ミ・ツッ♡
女神に年齢とレベルを聞くのは御法度だゾッ♡
「なんだその苛々する顔は。見ていて虫唾が走る。」
「誰の顔を見て虫唾が走ってるわけっ!?仮にも美の女神よワタシはっ!失礼にも程があるわよアンタッ!!」
「で、今の俺のレベルは幾つなんだ?」
「んー…このプテラ・サブラをちゃんと倒していればもっとレベルが上がってだんだけど…それでも其れなりに経験値は入っているようね。今のミコトはレベル11よ。この世界で言えば新米兵士と同じくらいのレベルね。」
「新兵か。そのレベルとはゲーム同様、魔物を倒せば増えていくものなのか?」
「本来ならね。基本的にはちゃんと討伐しないと入らないものなんだけど、テイマーみたいな特殊な職業は屈服させてテイムする事で五割くらいの経験値を貰えるわ。」
強張ったミコトの顔が息を吐きながら安堵の表情へと変わる。
「そうか。それは安心した。無闇矢鱈に素晴らしい
「でもちゃんと倒しきらないと効率が悪ぶふっっ!?」
「馬鹿か貴様は。
「あたたたた…アンタはワタシを蔑ろにしすぎよっ!確かにミコトの言う事には一理あるけど、ワタシ達は魔王を討伐に、要は殺しに来たのよ。其処ら辺はちゃんと理解してるの?」
「無論、先ずは「
「ふーん…其処ら辺はプロフ通りな訳ね。ワタシもホントはさぁ…戦いとか嫌なわけよ。痛いし、何より悲しいし、辛いだけじゃない?だからミコトのそういう所は嫌いじゃ無いかも。」
「俺には俺の
「何その意味あり気な前振り…」
「屠るだけが能では無いという事だ。」
「まぁいいわ。とりあえずミコトも自分でステータスを見てみなさいな。」
その言葉にミコトが右手を上げて静止の構えを取る。
「結構だ。」
「いや「結構だ。」じゃないわよ。」
「必要無い。」
なんだろう。ワタシを蔑んだ目で見ていた時のような…いや、コイツ全く話を聞く気がねぇ!?
耳ほじりだしてんじゃないわよっ!!
「いや必要だよっ!?アンタまさか…この先全くステータスも見ずに魔王を討伐する気じゃないでしょうねっ!?」
「当然だ。」
「アンタそれでどうやって此れからやっていくつもりよ。一応言っておくけど、今回の召喚がワタシにとってもラストチャンスなんだからねっ!其処ら辺ちゃんと理解してくれてるのっ!?ねぇどうなのっ!?」
「喧しい。別にステータスなぞ見ずとも相手の
「ホントに其れでダイジョブなんでしょうね…」
「そんな事よりも見てみろ。彼処に素晴らしい筋肉達が立ち往生しているようだ。」
「うぇっ!?もしかして人?人がいるの!?」
正面の様子を窺おうとプテラ・サブラの背中から頭の上へと攀じ登っていく。
「お前ホントに
「アンタ今や普通に私の事プロテインって呼んでるけど、アタシは正真正銘美と豊饒の女神よっ!それに何よ蜚蠊って…此れでもワタシはか弱い女神なのよ。てかアンタっ!一体何処鷲掴んで…あひゃっ!?あっ…ちょっ!?ちょっと!?アンタ指っ!其処はマズいっ!指が入るからっ!!入っっちゃうか…あぁぁんっっ…!!!!」
あ…ワタシ、もうお嫁にいけない…
「だっ誰だアンタらは!?まさかその魔獣を操る
何故か
現在、新たに俺の仲間となったプラッツの前には横倒しになった馬車、暴れ回り猛々しくその場で旋回する中々な仕上がりを見せる
プラッツの名前の由来は最強の脚を造り上げたレッグ・キング『脚の神』に因んで命名している。
今尚素晴らしい仕上がりを見せるプラッツの後ろ脚だが、更なる
ん?馬や魔物の名前の事はどうでもいいだと?馬鹿野郎っ!この俺が美しい
まぁ貴様等が其処まで気になるのも無理はない。
今プラッツと横倒れになった馬車の間には二人の女が立っていた。
一方は片手剣を構え俺の知る全身鎧とは違い比較的軽装の鎧を纏う剣士風の女とその背に隠れるお嬢様のようなひらひらとした濃紺のドレスを纏う幼げな印象を漂わせる女。
ふむ、
「この俺が護衛中に襲ってくるとは中々いい度胸だ。正し、幾ら図体がでかいとはいえプテラ・サブラ程度の下級モンスター如きを引き連れて襲おうなんて愚かにも程がある。あまり俺を舐めるなよ!」
女の構える剣から炎が噴き出し渦を巻きながら刀身に纏わりついていく。
剣を強く握る両腕の前腕伸筋群に力が籠り…おおっ!キレてるっ!キレてるよアイツの上腕二頭筋っ!女ながらに大したものだ。
「GYAOOOOOOOOOO!!!!」
その様子を窺っていたプラッツが上腕頭筋を激しく震わせて激しい鳴き声で威嚇し始めた。
「先ずは其の大蜥蜴から丸焼きにしてやるっっ!!!」
プラッツが威嚇した瞬間、剣士風の女がプラッツに向かって大きく刀を振りかぶった。
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