【予告編】超絶美少女の幼馴染が俺を5千円で雇うのには理由がある
世界三大〇〇
キス×アイドル×幼馴染×時給ダウン交渉ラブコメ
4月のとある日曜日の午前中。俺は原宿に急いでいた。いや、のんびりしていた。
地下鉄の初乗りをケチり、代々木公園の外周を原宿方面に向かった。
「なんで午前中から呼び出されなきゃなんないんだよっ」
のぼり坂を前にして俺は悪態を吐いた。
呼び出したのは幼馴染の朝倉桜子。俺と同じ高校3年生。
大方の予想では荷物持ちというところだが、それにしては早い。
「ったく! はぁーあっ!」
納得できない気持ちを大きな生あくびで誤魔化した。
あくびは、家を出てからこれで5回目。
交差点が見えたところで、俺を呼ぶ桜子の声が聞こえた。
「おーい。バカ太郎ーっ! よだれ出てるぞーっ!」
油断した。俺はとっさに6回目のあくびを辞め、口を押さえた。
けどよく考えれば、まだ遠い。よだれなんて見えるはずはない。
予想通り、痕跡は全く見つからなかった。
あくびを途中でやめたあとの気持ち悪さだけが残った。
ぐぐぐっ、桜子! 小悪魔めっ!
細い三つ編みに大きな黒縁メガネをかけた、地味な小悪魔が俺を迎えた。
「あれ? 明奈は一緒じゃないのか?」
明奈というのは俺のカノジョ。天使のような存在だ。
隠れている気配はない。
「大丈夫よっ、大丈夫、大丈夫!」
桜子は俺に猫パンチを喰らわせながら言った。
この猫パンチは、俺と桜子の挨拶で、幼馴染である証拠。
明奈とだって1度もやったことがない。
何が大丈夫なのかは分からないが、荷物が1つもないことに俺は安心した。
「一緒じゃなかったのか?」
「うん。途中から別行動」
おかしい。
明奈は昨日、桜子と一緒に買い物だと言ってはしゃいでいたのに。
こりゃ、何かあったな。
「で、どうすんだよ。これから?」
「……ねぇ、バカ太郎。キス、しない?」
えっ? 何をおっしゃる、桜子さん。
ちなみにバカ太郎は俺のあだ名。本名は佐倉太郎。
俺には明奈というカノジョがいることをご存知だろうに。
その天使様が俺のカノジョになったのは、2年前の桜子の功績。
間違いない。2人の身に、何かがあった。
「ははーん。さては人肌恋しくなったな、桜子くん!」
「バーカ。そんなんじゃないわよっ!」
本当っぽい。バーカというときの桜子は冷静。
俺は他の理由を探すため、スマホを取り出した。
間を繋ぐために愚問を投げかけながら。
「じゃあ、何で俺なんだよ?」
スマホの画面をガン見しながら、桜子をチラ見。
もじもじしている。かわいい。昔っから変わらない。
「しょっ、しょうがないでしょう。他に頼める人なんていないんだから」
はい、ご馳走様。桜子らしいテンプレ台詞。
桜子はWeb小説のいわゆるヨミ専と呼ばれる存在。
そして俺がスマホで調べていたのもそれ。桜子のトップページ。
(これだ。『超絶人気アイドルが……』か。作者は世界三大⬜︎⬜︎? 知らん)
昨日、フォローしたばかり。総PV3千ちょい。☆49。
埋もれた作品ってやつだ。それか駄作。
桜子はその小説に☆を3つも付けていた。相当な入れ込み具合だ。
また間を繋ぐ、そんなつもりだった。
「でも、俺には明奈という天使がいるんだが!」
「大丈夫よ! 明奈のことは、大丈夫だから……。」
そうか。大丈夫なのかっ。とはならんぞ。
桜子のやつ、俺たちの仲を引き裂こうというのか?
幼馴染とて、キューピット様とて、小悪魔とて、聞き捨てならん!
ま、俺たちの仲は盤石ではあるが。
そのときちょうど、スマホが震えた。明奈からの着信。メール。
俺は、その内容を確認した。
『ごめんなさい。もう太郎くんとはお付き合いできません。明奈』
ふっ、ふられた。
しかもメールで……。
署名付きで……。
何で? どうして? 急に! ショーック!
……。
俺には何故だか分からない。桜子は知っているのか?
「おっ俺、明奈に嫌われたのかぁ?」
「そんなことないよ。今日も満足度☆☆☆って言ってたわ!」
じゃあ何で? 何で別れなきゃいけないんだ。意味分かんないよっ!
「で、どうするの? して、くれないの?」
「何を!」
俺は、つい声を荒げてしまった。桜子は悪くないのに。
「だから、キス……。」
桜子、何言ってんだ? 俺はまだ、明奈に返事をしていない。
正式に別れたってことじゃない。
もう、俺の頭はパニック。何が正しいかなんて分からない!
桜子はフリーになった瞬間を狙うような子じゃない。
そもそも付き合おうではなくて、キスしようって。
そうだ。Web小説だ。そこに答えが……。
あった。なになに。キスして山吹る? 無双するってことか?
いっ、いいだろう。無双、させてやろうじゃないかっ!
「桜子。キス、するぞ!」
小っ恥ずかしいのは我慢して、思い切って言った。
もう、どうにでもなれってんだ!
「待って……。」
何でーっ! 何で待ってなの?
自分からやろうって、言ったじゃん!
なのに、どうしてーっ!
「……はい、これ!」
桜子が手にしていたのは、5000円札。どういうこと?
「これは、ビジネスキスだから。一応、渡しておくわ!」
ビジネスキス? これもWeb小説の? まぁ、何でもいい。
「毎度っ!」
「おおきにっ!」
これも、俺たちが幼馴染である証拠の儀式。
この5千円札は何らかの形で桜子にそのまま戻ることになる。
つまり俺たちは持続可能な循環型幼馴染なんだ。
(さて、あとで何をしてもらおうか、楽しみ!)
俺は桜子から5千円札を受け取り、ひとまずポケットにしまった。
「じゃあ、すんぞっ!」
「おうっ!」
俺たちは向かい合い、キスをした。
リップの感触は、明奈と互角で気持ちいい。
問題は、胸の感触だ。巨乳の明奈と比べちゃいかんのだろうが、ない。
感触が全くない。よく見ると、手が挟まっている。
よく挟めたものだ。そうか。貧乳だからか。
でも、どうして桜子はキスしたかったんだ。
あのWeb小説には、何が書いてあるんだ。
調べないままキスをしたのは俺の失敗。
キスが終わった瞬間、桜子に異変が起きることを予想できなかったから。
リップ同士が離れたそのとき、俺の胸にものすごい圧が襲う。
そして5mも吹き飛んで、尻餅をついた。
「いったーっ!」
頭を打たなくてよかった。1度仰向けになってから、念のため全身をチェック。
損傷は見当たらない。手も足も、腕や脚も、腰や顔もすこぶる元気。
ふと立ち上がった。
と、桜子がいない。忽然と姿を消していた。
「あれ? さっ桜子ーっ!」
呼んでもいない。辺りを見渡してもいない。
一体、桜子の身に何があったんだ。
吹き飛ばされた弾みに落ちたスマホが目に入った。
そうだっ、Web小説だ。
消えた桜子の手がかりはそれしかない。
俺は桜子が☆を投じたあの作品に目を通した。
それは、とんでもない小説だった。
つまり、これのこと↓↓
https://kakuyomu.jp/works/1177354054896587067
======== キ リ ト リ ========
本日はご来場いただき、誠にありがとうございます。
詳細は、Twitterをご覧ください。(本当に切り取ってしまいました)
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