第137話 いざ上陸……と思ったらクラーケン その4
「おびき出すとあなたは言ったけれど……。どうするつもりなのかしら」
ここは海の上。
船の甲板。
船べりに腰掛けて、艶かしい仕草で俺に問うペリル。
誘惑してくるような言葉遣いと身のこなしが天然なのだそうだ。
割と、俺が接触してきた女子達の中では肉食系女子だと思うのだが。
「うーん」
クルミは不思議そうな顔をして首をかしげるばかりで、いつものように間に割って入ってこない。
「クルミはですね、ペリルは全然本気じゃないと思うですよねー。センセエだってそのつもりないですし」
「よく分かるねクルミ。ああ、ペリル。おびき出すには何も特別な手段を使う必要は無いんだ」
「へえ……。特別な手段でないとすれば、一体何がマーマンを呼ぶ鍵になるのか理解しているということかしら」
「もちろん。それは君だ」
「私!?」
ペリルが黒目がちな大きな瞳を瞬かせた。
「マーメイドが地上にやって来て、人間の男性と恋に落ちるのが気に食わないんだろう。ならば、海の上で人間の男性と恋に落ちるのは効果てきめんなはずじゃないか?」
「ああ、言われてみればそうね!」
「センセエがペリルとラブラブするですか?」
「いや、俺じゃない。ここはやはり見栄えがいい、人間男性代表として……」
じーっと彼を見た。
「俺かあ」
アルディが思わず笑った。
「君なら、万一マーマンが突然攻撃を仕掛けてきても対処できるだろう?」
「そりゃあな。剣もぶら下げてるし、荒事を招くような作戦は俺としちゃ大歓迎だぜ。じゃあ早速やろうか、マーメイドのお嬢さん」
「あら、手慣れてるのね?」
「そりゃまあ、元辺境伯だからな。浮名くらい幾らでも流すさ。主に、女関係にだらしないとい噂を流して、下手な縁談が来ないようにするためだが」
「大変だったんだな」
「大変だったから地位を返上して、冒険者になってるんだよ。全く、あんたと一緒に旅して正解だったぜ。今度もなかなか面白そうだ……っと」
「あらら」
ペリルがアルディに手を取られて、くるりと回って抱きとめられた。
「さて、マーメイドのお嬢さん、どこまで行くかね?」
「ううーん、そうね。あなたはいい男だから、私は許しちゃってもいいのだけどー」
「そういうフリで頼むぜ。なるべく身軽でいたいんだ」
「身勝手な人ねえ」
一見すると、二人の顔の距離は近く、艶めかしい会話をしているように見える。
クルミはちょっと頬を赤くしてこの光景を眺め、
「ひやー」
なんて言っている。
積極的に俺にアタックしてくるが、彼女自身はまだまだ免疫が少ないようだ。
「あら? アルディがペリルに手を出してますの? 異種間の結婚は良いことですわ。種と種が繋がりあい、ラグナへの信仰が広がっていくことを我が神は推奨してますもの! ……あ。アルディはラグナ教徒じゃありませんでしたわね」
アリサはいつもどおり。
ごくごく冷静なものだ。
「これ、オースさんの作戦ですの?」
「その通り。話を聞いていると、マーマンは癇癪起こして暴れているような気がするから、こういうのは絶対耐えられないだろうと思ってね」
「たまたま海に出た船でこういうことをやっても、必ずそのマーマンが見てるとは限らないのではありませんの?」
「見てるさ。だって、この船はバルゴン号だ。そのマーマンが連れているクラーケンをぶちのめした船だぞ」
「なーるほど。策士ですわねえ」
「ここ最近はその機会が少なかったけど、俺の戦い方って基本それだからね。相手の弱点を突いて本領発揮させずに倒すの。はいクルミ、雷晶石準備しよう」
「は、はいです! う、うわー! ちゅーしてるですよー! ひやー」
「クルミさーん!」
「ひゃい!」
慌てて雷晶石をスリングにセットするクルミ。
近くの海面が泡立ち始めている。
ちょうどいいタイミングだ。
出るぞ出るぞ。
「うぬああああああ!! おのれおのれ地上の猿め!! 我ら海の民の美しき女を誘惑しおって!!
出た。
巨大なクラーケンが飛び出し、その頭の上に、全身を怒りで真っ赤に染めたマーマンが乗っかっている。
いきなり釣れたなあ。
というか、今回の作戦、マーマンの一番気にしているところを真正面から突いた形になったようだ。
「クルミ!」
「はいです! とやー!!」
雷晶石が放られた。
それは狙い過たず、クラーケンの上に座したマーマンにぶち当たり、バリバリと電撃を放つ。
「こ、これはなんウグワーッ!?」
びりびりに痺れたマーマンが、水中に落下していく。
ぷかあ、と浮かんで動かない。
ひくひく痙攣はしているようだから死んではいないな。
「よーし、残るはクラーケン退治だ! マーマンの命令を受けたままの状態だからね」
「よしきたあ!」
アルディがペリルを放り出して、剣を抜いた。
「あーれえー」
俺に向かってよろけてくるペリル。
「ごめんね、俺も戦うので。ブラン、頼む」
『わふ』
モフモフがマーメイドを、モフッと受け止めた。
「ああん、いけずー」
「オースさんは大概な朴念仁ですものねえ」
アリサに俺の性格を評されつつ。
戦闘が始まった。
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