第127話 モフき者、汝はフェニックス その4

 案の定というかなんというか。


『ウグワーッ!』


「はあー、こ、この触り心地、たまりませんわあー!」


 フェニックスのフランメはモフられていた。

 省エネモードとかいう、雀の姿になった状態である。


 モフモフをこよなく愛するアリサからは逃れられない。

 ふにふにモフモフとされて、フランメが呻いている。


『なんだご主人、また増えたにゃ? でかくなったり小さくなったりするやつにゃ?』


 新入りの顔を見ようとやって来たドレ。

 しげしげとフランメを見る。


『美味そうだにゃ』


『なんだチュン! やる気チュン!』


 フランメが起き上がり、ファイティングポーズを取った。

 視線が交錯し、文字通り火花が散るフェニックスとクァール。


「君達が喧嘩するととんでもない規模の災害が起こりそうだからやめてくれ」


『お前がそう言うなら退いてやるチュン』


『命拾いしたにゃ雀』


『雀じゃないチュン! 猫め!』


『ただの猫ではないにゃ!』


 うーむ、仲が悪いのか?

 言い争う割には、険悪な雰囲気ではないな。

 これも彼らなりのコミュニケーションなのだろう。


「やるなリーダー。モフモフテイマーの名は伊達じゃねえな。この雀、俺から見ても相当やるぞ。生半可なモンスターじゃ相手にならないだろうな」


 アルディがフランメを見て、感心している。

 彼の見立てからすると、このフランメ一人で先刻のサラマンダーの大群を倒せるだろうという話だった。


 だろうなあ。

 フェニックスの機動力と、そしてあの突撃。

 炎のブレスも脅威だ。


 ローズがいなければ、テイムはできなかっただろう。

 だが、最近の俺は割り切ったので、テイムしたモンスター達もまた俺の実力だと思うようにしている。


 これについては、アルディも同意見のようだった。


「リーダーがテイムしたモンスター、そりゃあリーダーにしかできねえことだからな。こいつらがやったことは、あんたの実力と言って間違いないと思うぜ。それにあの白い犬。常に力をセーブしながら戦ってるだろう。あれを御して、パワーを発揮させきるのは骨だぜ」


「やっぱりか。ブランはもっといろいろな事ができると思うんだが、マーナガルムは強力すぎて難しくてね……。ああ、ちなみにドレもローズも強さが未知数なので、力を発揮させきれて無いと思う」


「だな。それにフェニックスも加わって、あんたの戦力は恐らく……一人でセントロー王国は軽々と倒せるな。さすがの俺も、リーダーが連れてるモンスターは一匹ずつしか相手にできない。それだけとんでもない奴らを従えてるんだよ」


「それほどかあ」


 横目で、クルミにブラッシングされて目を細めているブランを見る。

 彼らはなんだかんだで人間ができているのが救いだな。


「な、なんとまあ。フェニックスまで手懐けたの!?」


 炎の巫女エレーナは、アリサの手の中でムニムニされるフランメを見て目を丸くした。

 巫女ともなると、一目でフェニックスだって分かるんだな。


「エレーナ、これで俺達は空を飛ぶ手段を手に入れた。いよいよ、アータル撃破作戦が実行可能になってくるぞ」


「そうねえ。アータル様の中にある、恐らくは火竜の卵を取り出す。空から行ければかなり楽になるわよね」


「リーダー、接近はできるだろうが、どうやって触れる? あれは炎の塊みたいなものだろう」


「そりゃあ、手を貸してくれそうな精霊王の手を借りるのさ」


 俺の話を聞いて、エレーナとアルディがきょとんとするのだった。




 かくして、船まで一端戻った俺。

 沖合まで出してもらい、舳先から声を張り上げる。


「聞こえているか、オケアノス。水の精霊王! アータルを鎮める方法が大体分かった!」


 反応が無いものと思ったが、アータルを鎮めると発した途端に向こうからのアプローチがあった。


 水面がもこりと浮かび上がり、そこから何者かが顔を出したのだ。


『それはまことか』


 水の塊みたいなものだが、これが水面を震わせて声を出している。


「もちろん。アータルが暴れだした理由は、火竜の卵だ。それが彼の中に出現している。卵がアータルの核になっているから、これを取り出せば鎮まるだろう」


『確かに、あやつは核を中心として現れる精霊王。此度の巫女では力が足りず、核たり得ぬ故、異なる核があるかと考えてはおったが、まさか火竜の卵』


 表情がない水の塊が、とても嫌そうな顔をしたのが分かった。


「火竜って、そんなにいやなものなのか」


『先代はワイルドファイアと言った。あれは世界を隔てる壁すら砕く、精霊王すらも手が届かぬ真正の怪物よ。火竜かあ』


 水の塊がため息をついた。


「ビブリオス男爵領では、地竜の子供が人間みたいに育っていたから、親になった人次第じゃないか?」


『なんと。ではうぬがやれ』


「また無茶振りしてきたぞこの精霊王は。短絡的過ぎませんかね」


『うるさいうるさい。任せた。わしは人間と雑談するつもりなどなかったのに、すっかり釣られてしまったわい』


 ぶつぶつ言いながら、水の塊はその形を崩し、海面に戻っていった。

 ちなみに、これを船に乗って眺めていたのが、アリサとエレーナである。


 二人とも唖然としている。


「オースさん、何で精霊王と当たり前みたいに会話してるんですか」


「へ?」


「あれね。彼が真竜に近い力を持つ魔獣を何匹も従えてるだろ? あ、真竜っていうのは属性竜のことね。だから、魔獣の主である彼のことを精霊王クラスだって判断したんじゃない?」


「ありえますわね。なるほど、お師様がわたくしを監視につけるわけですわ……」


「何の話をしているんだねキミたち」


 俺が聞いても、二人はヒソヒソ話をするばかりである。

 そこでクルミが俺に抱きついてきた。


「センセエがすごいっていうお話ですね!」


 おお、とてもわかり易くなった。

 だけど、モフモフモンスター達の力を借りてる俺が凄いというのはまだ違和感があったりするのだよな。



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