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第46話 アドポリスを救え! その1

 スリング準備よし。

 ショートソード準備よし。


 対する相手は、アンデッドナイト化したショーナウンだろう。

 中身はすっかりレブナントだろうに、あの動きは別れた時のままだ。


 レブナントというアンデッドは、生前の強さがそのまま活かされる。

 だから、あのレブナントは少なくともSランクに至った戦士と同じ強さを持っているということになる。


「何とも参ったね」


「センセエ! クルミもお手伝いするです!」


「クルミはそっちのローブを着た……サブマスターをお任せするよ。ショーナウンを止めるのは俺の仕事だろう」


『オース……! オースゥゥゥゥゥッ!!』


「はいはい」


 俺はショートソードを抜きながら、彼に向ける。


 ショーナウンは待っちゃくれない。

 彼は迂闊な男で、敵のことをろくに調べもしない。

 傲慢で、わがままで、どうしようもない男だが……その腕だけはSランク相当だと俺は認めている。


『オオオッ!!』


 吠えながら襲いかかるショーナウン。

 速い!

 俺は下がりながら、どうにかこれを武器でいなす。

 体を回転させながら、ベルトポーチからアルコールの瓶を落とした。


 ショーナウンが剣を叩きつけてくるところに、瓶を蹴り上げる。

 ここは流石ショーナウン。

 咄嗟に瓶を叩き切った。


 飛び散るアルコール。

 若干量が揮発して、どうやら鎧の隙間からあいつの体に掛かったようだ。


『ぬっ』


 動きが僅かに鈍くなる。

 その僅かで十分。


 俺は左手に巻きつけていたスリングを展開した。

 袖口から滑り落ちてくるアルコールの瓶。


『オースゥッ!!』


 俺の名を叫びながら、再び襲いかかるショーナウン。

 その顔面に、アルコール瓶を叩きつけてやった。


 だが、重ねて言うが、流石はショーナウンだ。

 こいつを見切って咄嗟に剣で防いだ。


「いやあ……強いね」


 俺は後ろにステップを踏みながら、体を軽く揺さぶった。

 ゴロゴロと転がり落ちてくるのは、アルコールの瓶だけではない。


 よし、マジックトラップで行こう。


 落ちているそいつを軽く蹴り上げて、立ち直ったショーナウンの足元目掛けて蹴りつけた。

 咄嗟に奴は回避するが、その足元に落とし穴が生まれる。


『ぬおおっ!!』


 ショーナウンはそれに気付き、体を無理やり捻って落とし穴を避ける。


「なんの!」


 今度はベルトポーチからはじき出したコカトリスの嘴。


『むうんっ!!』


 それを反転しながら剣で弾くショーナウン。


「強いな! 精神的なぶれがなくなったぶん、生前よりも強いんじゃないかあんた」


『ぐううううっ……! お前、が……ここまでやれるとは……思わなかった……ぞ』


「マジか。あんた、レブナントになっても自意識があるのか!」


 こりゃあ大したやつだ。

 体の全てを、人間ではない何かに置き換えてしまうレブナント化。

 それをされてなお、自分ってものを持ってるショーナウンは大したやつだ。


『お前、は……全力で……殺す……!! お前達……やれ……!』


『うううう』


『ああああ』


 ショーナウンが命じると、奴の後ろから二人ほど姿を表した。

 盗賊とヒーラーだ。

 こいつらもレブナント化してたか。


 だが、その目に意思の色はない。


「三対一というわけか。これは俺も分が悪い……と言いたいところだけど」


 俺は横にステップを踏みながら、足元にあったアルコール瓶を蹴り上げた。

 スリングでキャッチすると、さらに横にステップ。


 瓶を振り回しながら、十分な遠心力を得たところで……ヒーラーへと投擲。


『うあっ……?』


 彼女は回避できない。

 そりゃあそうだ。

 回復とバフを飛ばすのがメインの仕事だぞ。

 そんなのをレブナントにしたら、何の役にも立つまい。


 あっという間に、ヒーラーの全身から黄色い光が薄れて消えた。

 俺はそこに、抜き打ちに短剣を投げる。

 剣は彼女の頭に突き刺さると、そこから亀裂が広がり、ヒーラーはバラバラに砕け散った。


『ああおおおおおおっ!』


 盗賊が襲いかかってくる。

 彼の身のこなしはなかなか厄介だ。

 俺の戦い方に近いからな。


 なので。


「敏捷強化」


 俺にバフを掛けて、物理的に上回らせてもらう。

 盗賊としてのランクは彼の方が上でも、俺はバッファーとしても戦えて、レンジャーでもある。

 Bランクを三つ束ねれば、Sランク盗賊だって上回れるさ。


『あおおおおっ!』


 叫びながら、盗賊が体に装備した短剣を次々投げつけてきた。

 俺は躊躇なく地面に体を投げ出してこれを回避する。


『うらあああっ!』


 短剣を握りしめて、突き刺しに来る盗賊。

 それを、彼の足元目掛けて転がりながら回避。

 ついでに途中でアルコール瓶を拾い、こいつを彼の足に叩きつけた。


 割れる瓶。

 おお、割れやすく加工しておいて本当に良かった!


 盗賊の動きが鈍くなる。


『オースッ……!!』


 盗賊の後ろから、ショーナウンが迫っている。

 俺は盗賊の体に触れぬよう、リュックから取り出した布越しに奴の服を掴み取る。


「筋力強化」


 強化した腕力で盗賊を引き寄せて、ショーナウンへの盾とする。


『ううああああ』


 盗賊は短剣を俺に突きつけようとするのだが、片足の自由を失い、俺に重心をコントロールされて戦えるものか。

 レブナントは理性がないから、俺を突き飛ばして離れる、なんて発想がわいてこないのかもな。


 その結果……。


『オースッ!! 死ねえっ!!』


 振り下ろされたショーナウンの剣の盾となり、哀れ盗賊は真っ向両断。


「また二人きりになっちまったな、ショーナウン。そういや、お前の女の魔術師はどうした」


『オースゥゥゥゥゥッ……!!』


「ま、レブナント化してたら怖くもなんともないか。じゃあ、決めようぜ、ショーナウン」


 仕切り直しだ。

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