幕間 主人公到着
どういうことだ!?
アドポリスに残った人々の多くが混乱している。
あちこちで火の手が上がり、明々と黄昏の空を照らしている。
その中を、黄色く光を放つ死者達が、うめき声とともに徘徊する。
人々は怯え、家の中に閉じこもる。
明かりを消し、息を潜め。
どこかで、家の扉を叩き割る音がする。
悲鳴が聞こえる。
「こっちだ! レブナントめ!!」
「神の力を……! ターンアンデッド!!」
空から光が降りてくる。
レブナントは浄化され、倒された。
だが、光がまた新たなレブナントを呼び寄せる。
「どんどん出てくるぞ!」
「応援を!! 僧侶達は集合して! レブナントを浄化しなくちゃ!!」
街の一角へ、集まってくる僧侶、そしてレブナント。
人とアンデッドの全面対決である。
自然と、アドポリスにある教会は手薄になる。
入口を守る
その目の前に、黒いローブを纏った男が現れた。
「な、何者だお前は」
「何者だ、はお前達のことだろう。ここがどれだけ貴重な土地なのか分かっていないのか」
「何を言っている!?」
ローブの男から返ってきたのは、怒りを孕んだ言葉だった。
「ここは!! ここはな! このゼフィロシアの歴史が変わった場所なのだ! 今はアドポリスなどと名乗っているこの土地は、かつて魔王が吹かせた魔の風によって人が排され、魔なるもの達が世界に降り立つ入口となった輝かしき場所なのだぞ!!」
「だ、黙れ! お前は……!」
「応援を呼べ! 巡回の僧兵も……!」
「そこをどけ、無知なる者どもめ!! おい、やれ、ショーナウン!!」
『ううう……憎い……憎い……!』
黄昏時の物陰から、禍々しい甲冑が姿を表す。
ぶら下げられた剣は、かつて彼がSランク冒険者であったころに振るっていたものだ。
「アンデッドか!?」
「馬鹿め、我ら僧兵にアンデッドをぶつけるなど!」
「神の力を我に! 汚れた敵を討て! ターンアンデッ……」
『ふっ……!!』
速い……!
甲冑の男は、全身から黄色い輝きを放ちつつ恐るべき速さで踏み込んだ。
僧兵との間合いが一瞬で詰まり、突き出された剣は僧兵を真っ向から貫いている。
「お、おあああああっ!!」
僧兵が叫んだ。
突き刺さった部位から、黄色い光が彼の全身に広がっていく。
「そうれ、置き換わるぞ……! 人がアンデッドに置き換わる!」
ローブの男が、嬉しげに叫ぶ。
「だが、これだけで終わらせはせぬ! アンデッドは俺の専門外だが、召喚は俺の専門なのでな! それ、いでよモンスターども!! 教会を踏み潰せ! 打ち壊せ!」
男が周囲に、何かをばらまく。
それらは、落下と同時に広がり紫の光を放った。
携帯型の召喚陣とでも言うのか。
光の中から、トカゲの尾を持つ鶏が飛び出し、あるいは首をたれ下げた牛がのそりと現れ、蛇の如き体を持つオオトカゲが出現する。
さらには、首なし騎士までが現れて、僧兵達は肝をつぶす。
「なんだ、なんだ……! なんなのだこれは……!!」
現れた僧兵たちへ向けて、首なし騎士が指先を向ける。
首の垂れ下がった牛が、一つしかない目で睨みつける。
『汝らに死を与える』
「…………!!」
倒れていく、僧兵達。
『コケエエエエエッ!!』
『あるるるるるるるるるっ!!』
教会へと突入していくモンスター。
そして、倒れた僧兵達に、甲冑の男が剣を突き刺す。
刺された僧兵は、どれもが黄色い光を放ちながら起き上がる。
誰も止められない。
「さあ、この醜い構造物を破壊せよ! この土地のあるがままの姿をここに! 魔王が降り立った大地を、あるがままの姿に! 俺は……俺は魔王の降り立った痕が見たかったのだ……!!」
ローブの男が哄笑を上げた。
そこへ……。
『わおおおおおーんっ!!』
咆哮が響いた。
「……なんだ?」
男が振り返る。
モンスター達や、レブナントですら振り返った。
誰も無視できぬ圧力を、その声から感じたからだ。
そして、彼らの目の前で信じられないことが起こる。
沈みかけていた太陽が、一瞬で地平線へと押し込まれていく。
そして引きずり出されてくるのは、月だ。
空を漂っていた雲が引き裂かれ、その間から、月光が地を目掛けて降り注ぐ。
「なるほど。君がこの事態の黒幕で、そしてそんなアイテムを使ってあちこちにモンスターをばらまいていたのか」
「お前は……」
真っ白な獣が現れる。
その横に、優しげな風貌の男が立つ。
「間に合わなかったのは残念だ。だが、これで犠牲は終わりだ。分析は終わったからね」
『うううううおおおおおっ』
甲冑の男が、吠えた。
相手が何者かを理解したのだ。
それこそ、甲冑の男が生前に抱いていた妄念の対象。
憎むべき男。
『オースゥゥゥゥゥゥッ!!』
「やあショーナウン。久しぶりだね」
『わおん?』
白い獣が首を傾げる。
「ああ、彼とローブの男は俺が相手をするよ。君は、モンスターを蹴散らしてくれ、ブラン。どうということはないんだろ?」
『わふん』
白い獣が鼻を鳴らしてみせた。
そこに向かって、デュラハンが指を突きつける。
『汝に死を与える……!!』
『わん』
放たれた、心臓を凍りつかせる呪い。
これを真っ向から、その目で受け止める白い獣。
呪いが獣の目玉で……跳ね返される。
『……!?』
デュラハンの胸の鎧を突き破り、氷の塊が出現する。
『我が……呪いが……!!』
『わふん』
次の瞬間、デュラハンはすぐ近くで生暖かい鼻息を感じた。
「バカな」
ローブの男が呻く。
白い獣が、既にデュラハンに肉薄している。
いつ移動した……!
音も気配も、何も無かった。
そして今、白い獣の牙が、デュラハンの首をやすやすと噛み砕いた。
乾いた音を立てて粉々に砕け散るデュラハン。
『ぶもおおおおお!!』
『わふ』
死の視線を撒き散らしながら突撃するのはカトブレパス。
だが、それは真っ向から、白い獣の鼻先で受け止められる。
そして……獣が頭を軽く振り上げた。
宙を舞うカトブレパス。
飛び上がった獣は、空中で自由の効かないカトブレパスを、一撃で真っ二つに叩き割った。
着地と同時に、前足を振り下ろし、駆け込んできたコカトリスを無造作に踏み潰す。
『オンッッッッ!!』
口先から漏れ出る、細く引き絞られた咆哮が、音の刃となってバジリスクを正面から両断した。
「なんだ……なんなのだ、こいつは……!!」
「SSランクモンスター、マーナガルム。いや、多分、もっともっと上のランク何だと思う。けれど、俺達人間の尺度じゃ、SSより上のランクが無いんだよな」
「マーナガルム……? これが……? まだ、誰も退治した事がないという……」
「そうだったんだ……?」
男が、オースが歩いてくる。
無造作に、その手には何も握らず。
だが、甲冑の男……ショーナウンは油断しない。
オースのベルトポーチが、リュックが、腰に穿いた短剣が、ショートソードが、その全てが恐るべき武器であることを知るからだ。
そして始まる。
これは、アドポリスの明日をかけた戦いだ。
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