第12話 新パーティ結成 その2

 冒険者達を管理し、格付けしたり仕事を分配したりする組織、冒険者ギルド。

 それは一つの街に一つあって、独立しているが連携してもいる。


 アドポリスのギルドは、冒険者の街というだけあってかなり大きい。

 百人以上の冒険者が登録しているはずだ。


 その中で、Sランクパーティは二つ。

 うち一つがショーナウン・ウインドで、俺もその一員だったはずなんだけど……。今はフリーになってしまったな。


「ほええ、でっかい建物ですう。こんなに大きかったら木の上に建てられないですねえ」


「ゼロ族らしい感想だなあ。俺達人間は、樹の上では生活できないからね。その代わり、大きい建物をたくさん建てるんだ」


「そうだったんですねえ!」


 また一つ賢くなりました、と瞳をキラキラさせるクルミ。

 さて、彼女だけど、冒険者になるとしたらクラスはなんだろうな?


 適性を見てくれる魔法がギルドにはあるから、まずはそれで確かめてみよう。


 なお、俺もそれをやって、モフモフテイマーなるクラスに適性があると出た。

 そして当時Bランク冒険者だったショーナウン・ウインドにスカウトされたのだ。


 懐かしいなあ。


「ただいま戻りましたー」


 俺は一声掛けながら、ギルドの扉をくぐる。

 ギルドの中は、半分が酒場みたいな談話室になっていて、そこで食事やお酒が出る。


 スペース的にはそこそこだから、ギルド構成員は全員入れはしない。

 本格的に酒を飲む時は、周りの商店街を利用するわけだ。


 この辺りは冒険者を当て込んだ店もたくさんある。


 夕食は、クルミとブランを連れて、アドポリスの名物料理を食べるのもいいかもしれない。

 幸い、バジリスクの粉がたくさんあるからお金には困らなそうだしね。


 だけど、俺とクルミとブランが扉をくぐったら、談話室の冒険者達が一斉に俺を見た。

 そしてポカーンとする。


 あ、やばい。

 動物はギルドの中に連れ込み禁止だったか!

 だけど、うちのギルドにテイマーは俺一人だけだし、ルールみたいなのも聞いたことなかったからなあ。


「ああ、ごめん! ブランを中に入れちゃだめなら外で待たせるよ! ブラン、ちょっと外で大人しくしててもらっていいか?」


『わふーん?』


「なんで自分が人間ごときに気を使わければならんのって、そこをどうにか頼むよ……!」


『わふふん』


 なんとかブランに承諾してもらった。

 その代わり、今夜はお肉を多めに要求された。

 テイマーって言ったって、モンスターとはそれなりに対等なのだ。


「さあ、これでモンスターはいない! ……でも相変わらず俺を信じられないものでも見るような目で……」


「お、おい。オース……だよな?」


「オースさん……生きてたんスか……!?」


「暗黒の森で死んだはずじゃ……?」


 ど、どういうこと?


 まるで彼らの口ぶりだと、俺が死んだみたいになっているじゃないか。

 それに、暗黒の森の話まで知っているとは。


 ふと気づいて周囲を見回す。

 ショーナウン・ウインドの連中がいたりするんだろうか?


 そして俺は、談話室の奥に信じられないものを見た。


 Sランクパーティのリーダー、ショーナウンそっくりの石像だ。

 恐怖と困惑を浮かべた顔のまま、固まってしまっている。


 その近くの席には、よく見知ったパーティメンバーが真っ青な顔で俺を見ている。


 ショーナウンの石像かあ。

 よくできていると思うけれど、これってもう、間違いなくあれだろう。


「ショーナウン、もしかしてバジリスクにやられたのかい?」


 ギルドの受付嬢が出てきて、「そうですよ」と応じる。


「石化の解呪ができる呪術師を探してるんですけど、なかなかこの街にはやって来てくれなくて……」


「呪術師もレア職だもんねえ」


「はい」


「バジリスク粉も切らしちゃってる?」


「はい。ショーナウン・ウインドの方々は幾らでもお金を出すと仰ってましたけど……」


「そうかあ。ちょうどここにある」


 俺はナップザックから、バジリスク粉を詰めた袋を取り出した。

 テーブルの上に少しだけあけると、キラキラ輝く黒と紫の砂粒がこぼれ落ちた。


「バ……バジリスク粉……! どうしてこんな貴重なものを!?」


「暗黒の森から出た時に、彼女、ゼロ族と出会ってね」


「クルミのことです?」


 クルミが首を傾げた。


「そうそう。それで、ゼロ族を助けるためにバジリスクを退治したんだ。あのモンスターの習性はよく分かってるから。あとは、俺もついにモンスターをテイムできたんだよ。さっき入ってきたモフモフした犬がいるだろ? ブランっていうんだけど彼の力を借りたお陰で、いつもよりも簡単にバジリスクを片付けられた。これはそのほんの一部だよ。高く売れるの?」


「は、はい。仲介料込で、ショーナウン・ウインドの方々の預金と現在のプレミア価値を加えると、こんな感じで……」


 パチパチと、算数盤を弾く受付嬢。

 算数盤が読める人には、一発で計算と算出された数値が分かる優れた道具だ。


「へえー! 相場の三倍じゃないか! いいよ、売った! それでショーナウンを助けてやりなよ」


「ありがとうございます! それにこれだけの量があれば、当分の石化対処はギルドで可能になりますね」


 受付嬢がにっこり笑った。

 すると、クルミがトコトコ出てきて、俺と受付嬢の間に挟まる。


「ダメですよ。センセエはクルミが見定めているところなんです。よこはいりはダメです」


「あ、は、はあ……?」


 首をかしげる受付嬢なのだった。


 俺達の話を聞いた酒場の反応は劇的だった。


「あのバジリスクを倒しちまったってのか!?」


「やっぱり、オース一人でバジリスクを倒してたんじゃないか!!」


「ショーナウンのやつら、Sランクの実力はないに違いないって!!」


 なんか妙な話になっているな。

 パーティの元仲間達は小さくなって、顔を伏せている。


 うーん……?

 ちょっと見ない間に、あいつら落ちぶれてるような……?


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