幕間 Sランクパーティ、バジリスクと遭遇す

「くっそ、そんなバカな! 何だこのモンスターは!!」


 Sランクパーティ、ショーナウン・ウィンドは今、森の中で謎のモンスターと遭遇していた。

 パーティから役立たずのテイマー、オースを追放した翌日のことだ。


 オースがいなくなってせいせいしたと思ったが、問題が幾つか発生した。

 まず、野営の準備に手間取ったこと。


 いつもと比べて、テントを用意するのも、食事を用意するのも上手くいかない。

 まさかあの男が手際よくやっていたというのだろうか。


 いやいや、野営の準備ごときでSランクパーティに加わっていられるわけがない。

 あいつは役立たずなのだ。


 次に、水を補給に行った時。

 仲間が生水を飲んで腹を壊した。


 幸い、ヒーラーの回復魔法で事なきを得たが……こんなことは初めてだ。

 いつもならば、川から水を補充しても大丈夫だったように思うが……もしや、あの男がひと手間加えていたのか……?


 ショーナウンは疑念を抱く。

 なんだ?

 些細なことだが、どうもパーティがぎくしゃくしだしている。


 当たり前だったことが、上手く行かない。


 例えば地図を用いて暗黒の森を抜ける際にも、かなり手間取った。

 地図の読み方くらいは心得ているが、いつものようにサクサクとは進めなかったのだ。


 何度か戦闘があったが、それも苦戦した。

 敵の攻撃のペースが早い。


 魔法の準備をする余裕が明らかに減っていた。


 そう言えば、あの男はいつも前線で、敵を倒せるわけでもないのに倒されることもなく、特に厄介そうなモンスターを足止めしていた気がする。


「いや、待て! あいつが役に立つ訳がない」


 吐き捨てるようにショーナウンは言う。

 仲間達も同意する。


 モンスターをテイムできないテイマーが、Sランクパーティに参加していた。 

 それだけでも、おかしな事だったのだ。


 いや。

 いやいやいや。

 どうしてあいつはテイマーとしては無能なくせに、俺達についてこられていたんだ……?


 迷いは感覚を淀ませる。


 暗黒の森を抜けたショーナウン・ウィンドは、ごくありきたりの森に差し掛かっていた。

 木々が鬱蒼うっそうと茂り、昼なお暗い森の中。

 

 そこで異変は起こった。


 まず、盗賊の男が毒煙を吸って血を吐いた。

 異常を感じ、ヒーラーが彼を癒やしながら警戒を叫ぶ。


「ショーナウン! 何かいるわ! 毒を使うモンスターが!」


「なんだ!? 何が起こった!?」


 改めて身構えたショーナウン。

 闇の中で、爛々と輝く赤い瞳が見えた。

 あれは……。


 見たことがある。


『ウルルルルルルルル……』


「なんだ……なんだったか、こいつは……!」


 剣を抜き、モンスターに斬りかかる。

 横殴りに、平たい尾が叩きつけられてきた。

 これを盾でやり過ごす。


「俺はこいつと戦ったことがある! 確か、これは……」


 名前が出てこない。

 モンスターの識別は今までどうしていた?


 あの役立たずテイマーに任せていたんじゃないのか。


 ショーナウンの中の戦士としての本能が警戒を告げる。


 まずい。

 相手に対する知識を持たず、モンスターと戦うのはまずい。


「一度退くぞ!」


 ショーナウンは叫んだ。

 彼自身が盾となりながら、仲間達を逃がす。

 だが、それをモンスターは許さなかった。


 吐き出される毒の吐息。

 それがパーティを包む。


「まずい、か、風下か!! こいつ、毒のブレスを……!」


 動きが鈍くなる仲間達。

 ショーナウンは彼らをどうにか押しやりながら、モンスターの攻撃を必死に捌く。


 仮にもSランクの戦士だ。

 簡単に倒されることはない。


 だが、正体が知れない相手に、まともに攻撃を加えることもできないでいた。


 そして彼らはようやく、陽の光が当たる場所まで逃げてくる。


「ここまで来れば、大丈夫だろう! 風向きも変わった! それに、ここは広い!」


 ショーナウンは仲間達を庇いながら立つ。


「来いよ、モンスター!!」


 その叫びに応えて、謎のモンスターが姿を表す。


『ウルルルルルルッ! ウルラララララララララッ!!』


 奇妙な唸り声とともに、六本の足がバタバタと地面を掻いた。

 それは、黒と紫のマダラになった、巨大な六本足の蛇。

 目は赤く輝き、口から毒の吐息を吐き散らす。


「ショーナウン! こ、こいつ、バジリスクだ!! 砂漠にいるはずの……!!」


「なんだとっ!?」


 ショーナウンの脳裏で、このモンスターの記憶が蘇った。

 あの時は、砂漠で戦ったはずだ。

 メンバーの数は五人で、そう苦戦しなかったから記憶に無かった……?

 

 確かあいつは、何か注意を叫んでいたはずだが……。

 ええい、どうでもいい!


「でかかろうと、広いところで戦えば俺の勝ちだ!! うおおおおおっ!!」


 ショーナウンは雄叫びを上げてバジリスクに襲いかかった。

 戦士の眼差しはまっすぐ。

 狙う敵の目を見つめ……!


 目を……見つめ……。


 ショーナウンの動きが急に止まった。

 動けない。

 何だ。

 何だこれは。


「嘘だろ……! ショーナウンが石になっちまった……!」


「そ、そうか! バジリスクと目が合うと石に!!」


「み、みんな! ここに緊急避難用の巻物スクロールがあるわ!! これで逃げましょう! パーティ登録しているから、全員逃げられる! 発動……瞬間移動!!」


 魔法使いの女が巻物を使うと、彼らの姿は消え失せた。

 一瞬遅く、石化したショーナウンを喰らおうと、バジリスクの顎が空を噛んだ。


 この光景を森の中から見つめる者がいる。

 黒いローブを着た男だ。


「悪くない……。あれはSランク冒険者のショーナウン・ウインド。奴らを退けるだけの力があるなら、十分だ。我が使い魔よ。お前はここを守っていろ。じきに私は戻り、お前に新たな命を下す。追い払ったリスどもが戻ってくるかも知れんが、蹴散らせ」


『ルルルルルルルルル……』


 悪の魔道士と、彼が召喚した場違いな凶悪モンスター、バジリスク。

 彼らはこの地にて、何か邪悪な事を企んでいるのだった。



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