第2話 追放は新たなる旅立ち その2

「あのー。もしやあなたが、マーナガルム?」


『わふーん?』


 でっかいモフモフが、笑ったような顔になる。

 そして、首を傾げた。


 うーん。

 かわいい。


 そしてどういうことだろうか。

 俺を襲う気配がない。


 ここで俺はハッとする。


 マーナガルムがでかいモフモフ犬だとしよう。

 モフモフ犬はモフモフしている。

 俺はモフモフテイマーだ。


 つまり……。


「俺は君をテイムできるんだな!」


『わふわふ』


「よし、テイムだっ!!」


 ようやく痺れも取れてきて、俺はマーナガルムに向けて手を伸ばした。

 そしてハッとする。


「テイムってどうやるんだっけ」


 俺はこれまで、一匹のモンスターもテイムしたことがない。

 というのも、ショーナウン・ウィンドの冒険する場所は、どこもかしこもモフモフモンスターがいない場所だったからだ。


 実地で練習できなかったのだ。

 

「むーん、むーん」


 やり方が分からなくて唸っていると、マーナガルムは口をパカーっと広げた。

 凄く笑ってるような顔になる。

 そして、舌がにゅーっと伸びてきて俺の手のひらをペロッと舐めた。


「おひょー」


 手のひらがベトベトになってしまった。

 だが、俺がその事を気にする暇はなかった。


『わふーん』


 マーナガルムは鼻を鳴らすと、俺の目の前で伏せの姿勢になったのだ。

 こ、これは……!?


「テイムされている……!?」


『わふ』


 マーナガルムが尻尾を振った。

 これはどうやら、俺を主として認めたらしい。


 恐る恐る近づいて、でかいマーナガルムの鼻に触ってみた。

 しっとりしている。


『わふ』


 おっ、ちょっと嫌がってる。


「ごめんごめん、鼻には触らないよ。よーしよし、いい子だなあ」


 俺はマーナガルムの首をよじ登り、背中から首にかけて全身で抱きついた。

 手のひらで、もふもふした毛をわしゃわしゃする。


『わふふ』


 おお、喜んでる喜んでる。

 マーナガルムの大きさは、雄の牛くらい。

 まあ、とんでもなくでかい犬だ。


 この気が優しそうなモンスターが、SSランクだって言うのか?


 目の前にしていながら、とても信じられない。

 しかもそれを俺がテイムしたのだ。


「マーナガルム、進めー」


『わん』


 立ち上がったマーナガルムが、トコトコ歩く。


「伏せ!」


『わふん』


「お手」


 俺が差し出した手に、マーナガルムは器用に前足を伸ばし、ぽふんと触った。


「おおー! いい子いい子いい子! よーしよしよしよし」


 わしゃわしゃ撫でたら、マーナガルムが鼻をすぴすぴ鳴らして喜んだ。


 ま、いいか!

 こいつ可愛いし!


 俺もモンスターをテイムできたことだし、いっぱしの冒険者になれた気がする。

 だが、もうSランクパーティに戻る気はないな。


 あんなひどいことを言う奴らとは一緒にやっていられない。

 俺は孤高を貫き、モフモフの道を行く……!


「よーし、それじゃあ森の外に行くぞマーナガルム! ……いちいちその名前で呼ぶのも長いよな。よし、名前をつける」


『わん』


「えーと、白い毛皮だから、シロ……は安直だし。ホワイト、もまんまだし。よし、お前はブランだ! これも白って意味だけどな」


『わんわん!』


 気に入ったらしい。

 いや、いつもこいつは笑ってるような顔をしてるから、本心は分からないんだけど。


 そう思ったら、ブランは俺をぺいっと地面に落として、めちゃくちゃに舐めてきた。

 うわあー! 全身べとべとだあ。

 だけど、猛烈に喜んでるのはわかるぞ!


「うおお、だけど犬くさいーっ!!」


 こうして、俺と魔犬ブランのふたり旅が始まったのだ。

 


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