そよ風
沖田
夏の風
りいん、りいん、夏の涼しい風とともに耳に届くのは変わらない河原のそばに住む小さな生き物達の声。涼しくなってきたわね。
昼間の暑さが想像できないくらい暑さが遠のき暗く闇に包まれる時間がやってくる。
夜の闇は怖くはない貴方を思い出す。
(もうそろそろあの人に会えるのね…待ち遠しい)
「おばーちゃーん、何してるの?」
孫のユンナが葦の間をかき分けてやってくる。
あーあ、あんなに服を汚して、あの勢いで突っ込んできたら私は倒れるのではないか…
「うおっ!そんなに急いでくるんじゃないよ」
「ねぇおばあちゃんいつもここで何してるの?夜になったらいつもここに来て座ってるでしょ?」
「何だと思う?ユンナ」
「分からないよ」
「ふふっ、私はねここで待っていんるだよ」
「え?誰?」
「秘密、私の大事な人さ」
「ふーん、ユンナも会ったことある」
「あるさ、いつもそばにいるの。ただ見えていないだけでいつも見守ってくれてるのさ」
寒くなってきたな。ユンナも今年でもう八歳、私も歳を取るわけさ。
ゆっくりと星が流れる下で孫の頭を撫でる。私とよく似たふわふわな癖毛になってしまって、この時期はよく跳ねてしまって大変だろうに。
「ただね、夏の最後の日には私にだけ見てるのさ。そんな約束をユンナくらいの時したからね」
「えー、いいなー」
「ユンナもね大事な人ができたらおばあちゃんみたいに離さないで掴むんだよ。離しちゃダメさ」
「ユンナも離さないくっつく!!」
「あはは、そうさくっついてやんな。人の出会いは一瞬のものだからね」
「さあ、お前はお帰り。母が待っているよ」
「うん!」
白い白髪の隙間からユンナの赤い後ろ姿が見える。
今日は夏の最後の日。私と貴方の秘密の日。
若かった頃はドキドキしてたが、今は穏やかな気持ちでお前を待てるよ。
闇が森の方からジワリと広がってくる。それに合わせて蛍の玉が空一面に広がって綺麗だ。
「サヤ、来たぞ。約束の日だ」
「いちいち大袈裟に登場するな」
「サヤの喜ぶ顔が見たくてな、気に入ったか?」
「ああ、嬉しいとも。お前の顔を見れたから嬉しい。こっちに来てもっと」
ひのえの硬い掌が背中に回るのが感じられる。あったかい。
掌が頬に添えられ、優しく頬を撫でる手つきはとても優しい。
「うむ、サヤはまた美しくなったな」
「老けたというんだよこれは。目医者に行ってこい!!良い奴を紹介してやる」
「私の目は丈夫だぞ。何をいうか!」
「おまえは何も変わらないな。それが少し寂しかったが、今はそれが特別だと納得している。神山におわす神だものな…しかなたいが、まだまだ私もしぶとく生きてやるからな!覚悟せい!ヒノ!!」
「ああ、分かっているとも。しぶとく生きるのだろう。分かっているさ」
悲しげな顔で俯いてしまった頭の鉄板を見る。昔は見えなかったものだ。背が低い子供の頃は、見えなかったもの。なぜかそれが寂しくて嬉しい。
私と貴方が出会ったのもこんな暗い闇の中だったな。今から六十年も前のこんな夜にお前と会えた。
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