タコとbullet

ころねこ

第1話 二人の入学と入部


「今日はちゃんと起きれたじゃん」


 もたれていた塀から背を離しながら笑いかける。


「入学式から遅刻なんてしないよ!」


「へー、中学の入学式は何時に登校したっけ?」


 ぎくり、とわかりやすく肩を揺らす。

高校生になってもこんなに顔に出やすいやつなんてこいつ以外いないんじゃないか。


「ていうか早く行かないと!急いでよ!」


 先に来たのわたしなんだけどな、と呟きながら彼女の後ろをついていく。


「雅ちゃんは高校の部活どうするの?」


 桜並木の通学路を歩きながら優が尋ねてくる。


「なんのために女子野球部のある千田高校に来たの」


「だよねぇー」


「分かってることをわざわざ聞くんじゃない」


 ごめんごめん、と舌を出して謝ってくる。うざったらしい仕草だな。殴ってやりたい。

まあ、今日の私は星座占いで一位の女だからな。気分が良いから見逃してあげよう。


「じゃあさ、」


 鼻歌を歌ってご機嫌な私に続けて質問してくる。なんだなんだ入学式で緊張してるのか?こんなに優から話しかけるなんて珍しいじゃないか。


「どうしたの」


 優の次の言葉がなかなかでてこないので不思議に思い、彼女の方に顔を向けると、




「私たちは高校でどこまでいけると思う?」




 まっすぐ私をみつめながら微笑みかけてきた。


「・・・」


 私は少し考えて、それでも確かな答えを持って微笑み返した。




「分かってることをわざわざ聞くんじゃない」




 今度は本当に殴ってやった。




    *




 私たちが今日から通うことになる私立千田女子高校は、一昨年に新設されたばかりの高校だ。新しくできたばかりだからなんの実績もなければ偏差値が高いわけでもない、ただ校舎が新しいことだけが取り柄のごくごく普通の高校である。

 そんなところになぜ通っているのかというともちろん・・・


 第一志望に落ちたからである。


 まあ私たちは中学野球でそれなりの結果を残したし、スポーツ推薦の話もあったそうだけどある事情で全部白紙に。推薦で入るつもり満々な私たちが急に勉強を始めても、難関校であり女子野球の強豪の藤田総合高校などに入れるわけもなく。

 正直、不合格の通知が届いた時は人生終了の通知も共に届いた気分になったが、優と合否結果が全く同じで嬉しかったのはまた別のお話。


 というわけで、そんな普通の高校で、普通の入学式が終わり、普通のクラス分けが行われ、私たちは放課後、部活動見学のためにグラウンドに来ていた。サッカー部やテニス部が額に汗を浮かべながら練習をしている。素人目の私から見てもこの人たちが上手い部類に入ることが分かるほど、洗練された動きだ。

 これは野球部も期待できるのでは!?


「雅ちゃん・・・」


 うん。言いたいことはわかるよ。


「これは・・・」


「ひどいね・・・」

「ひどいな・・・」


 キャッチャーは良い動きをしてるのだが、ほかがひどい。本気とは思えない直球を投げるピッチャー、ショートバウンドも捕れないショート、落下地点の予測もできない外野。


「もっと勉強しとくんだったな・・・」


「そうだね・・・」


 入学してそうそうに後悔する二人を他所に楽しそうにノックする先輩たち。


「まぁ、楽しくやるのは大事だよな」


 ていうか、星座占い二度と信じない。




    *




 一週間の見学期間を経て、ついに一年生の本入部が始まり、私たちも野球部に来ていた。違う部活に入ることも考えたが、私たちは高校から始めて活躍できるほど器用ではなく、ベンチから応援などできないほど負けず嫌いであることを思い出し、しぶしぶ野球部と書いた入部届を持ってグラウンドに来ていた。


「お、君たち新入部員かい?僕はキャプテンの谷山楓。これからよろしく!」


 おお、この前見かけたキャッチャーだ。


「よろしくお願いします!」


 優が元気よく挨拶をする。あ、そっか、挨拶しなきゃ。


「よろしくおねがいします」


 そう言いながら、私たちは入部届を部長に渡した。


「練習は30分後だから、それまでに準備してグラウンド来てね。それじゃ」


 すたすたと歩いていく部長。どうやら練習の準備に向かったようだ。


「上級生が準備するなんて珍しいね」


 優が不思議そうに尋ねてくる。


「申し訳ないけど、やってくれるなら任せて練習まで校内散歩しない?」


「いいねー」


 この部が弱いのは上下関係とかも関係してそうだな。練習に従わない下級生が出始めるきっかけになるからな先輩と後輩の線引きのあやふやさが。

 そんなことを考えながら私たちは校内への散歩に向かった。




    *



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