272_暗明

「それじゃ行ってくる」

背を向けた彼女は橋の向こうの街へ歩いて行った。

僕も早く帰ろう。具合が悪くなってきた。


帰ってきた部屋はとても明るい。彼女が電気をつけてくれたおかげだ。

テーブルにはかすかに温かみあるハンバーグが用意されていた。有難い。


彼女とは長い付き合いだが、

一緒に食卓を囲んだことはないし、

一緒に寝たこともない。

それでも僕は幸せだ。

僕の事を理解してくれる人に出会えたのだから。


きっと僕は幸せのはずだ。


そろそろ仕事に行く時間、彼女を迎えに行く時間だ。

頑張ってご飯を作ろう。頑張って雨戸を閉めよう。




「それじゃ行ってくる」

背を向けた彼は橋の向こうの街へ歩いて行った。

私も早く帰ろう。具合が悪くなってきた。


帰ってきた部屋はとても暗い。彼が雨戸を閉めてくれたおかげだ。

テーブルには香ばしいサンドイッチが用意されていた。嬉しい。


彼とは長い付き合いだが、

一緒に出かけたこともないし、

抱き合ったこともない。

それでも私は幸せだ。

私の事を理解してくれる人に出会えたのだから。


きっと私は幸せのはずだ。


そろそろ彼を迎えに行く時間だ。

頑張ってご飯を作ろう。頑張って電気をつけよう。

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