Hello! あぶない新署長 #16
その後、甲山の指示で地域課員達が『二條ビル』内に入り、『ビッグウェーブ』の男達を一網打尽にした。グロッキー状態で次々と連行されて行く不良達を横目に、島津が乱れた髪を手で直していると、気絶したままの福森に手錠をかけて引きずり起こした甲山が声をかけた。
「署長、お疲れッス」
「いえ、皆さんもお疲れ様でした」
島津が答えると、横から草加が入って来た。
「やりますね〜署長!
「いや、お見苦しい所をお見せしました」
「そんな、カッコ良かったッスよ、ねぇコーさん?」
「あぁ、ちょっと危ねえけどな」
甲山は口角を吊り上げて答えると、島津に軽く会釈して階段へ向かった。草加も後に続く。島津が微笑しつつ見送ると、今度は坂爪を抱えた仲町が寄って来た。
「署長。はい、これ」
仲町が差し出したのは、島津が放り投げた眼鏡だった。
「どうもありがとう」
礼を述べて眼鏡をかけた島津に会釈して、仲町は駆けつけた救急隊員に坂爪を引き渡した。島津も階段へ歩を進めながら、スマートフォンを取り出して森本に電話をかけた。
「島津です。たった今、終わりました。鴨居君にも伝えておいてください。では」
翌日、出署した島津は、目黒からの報告を聞いた。
「昨日逮捕した『ビッグウェーブ』の連中ですが、荻原拓司君への暴行についても認めました。死体の遺棄を指示したのは福森で間違い無い様です」
「そうですか」
「ええ。しかし」
「しかし、何でしょう?」
言い淀む目黒に、島津は先を促した。目黒は軽く会釈して煙草を一本抜き出し、火を点けてから言葉を継いだ。
「その福森なんですが、死体遺棄の指示と、木下代議士襲撃計画については関与を認めたんですが、バックに金城組が居る事は頑として認めませんでした」
「あくまでも『日本皇義党』としての犯行計画、と言う事ですか?」
島津の指摘に、目黒は苦虫を噛み潰した様な顔で頷いた。
「甲山と草加が金城組に行ったんですが、あちらさんは福森はこの間破門した、の一点張りで、こちらも徹底的に関与を否認したそうです」
「そうですか、では、仕方ありませんね。ともかく、お疲れ様でした」
島津が頭を下げると、目黒は主流煙を吐き出してかぶりを振った。
「いやいや、本当にお疲れだったのは署長の方でしょ?」
「はいぃ?」
眉を上げて訊く島津に、目黒は楽しげに返した。
「聞きましたよ〜、二條での大立ち回り! 不良達をちぎっては投げちぎっては投げと、
「やめてくださいよ、からかうのは」
島津は苦笑して抗弁するが、目黒は尚も続ける。
「いや〜あたしも見たかったですなぁ署長の大活躍! 今度はあたしも現場に御一緒させてくださいよ」
「何言ってるんですか室長」
ふたりが笑い合っている所へ、鴨居の声が割り込んだ。
「失礼します」
島津と目黒が同時に振り返ると、まだ頭部に包帯を巻きつけた状態の鴨居が神妙な面持ちで立っていた。
「おぉ、もういいのか?」
目黒の問いに頷いて、鴨居は島津を向かって深々と頭を下げた。
「御心配を、おかけしました」
島津はそれまで座っていた椅子から腰を上げ、鴨居に歩み寄って答えた。
「本当に、無事で良かった」
「あ、ありがとうございます」
もう一度頭を下げた鴨居が、島津の顔をまじまじと見て訊いた。
「あの、ひとつ訊いていいスか?」
「何でしょう?」
島津も鴨居を真っ直ぐ見返して応じる。鴨居は居住まいを正してから、改めて訊いた。
「何で、今回の事件にそんなに関心を持たれたんスか? わざわざ署長が現場にまで出て行くなんて、普通じゃ考えられないじゃないすか。しかも、本署に頭を下げてまで、どうしてそこまでしてくれたんスか?」
鴨居の横で、目黒も島津に真剣な眼差しを向ける。島津は自分のデスクの上に置いたティーカップを取り上げて紅茶をひと口啜ってから答えた。
「荻原君の遺体が発見される前の日、僕が初めてここに来た日ですが、ここの前で僕が荻原君を見かけたのは、話しましたよね?」
「あ、ええ」
鴨居が遺体発見時を思い出しつつ頷くと、数秒間を置いて、島津が続けた。
「あの時荻原君は、何も話さずに立ち去ってしまいましたが、もしかしたら、誤って送られた坂爪からのメッセージを見て何か不穏なものを感じて、警察に話そうと思ったのではないでしょうか? もしあの時、僕が彼を引き止めて話を聞いていたら、今回の事件は起きなかったかも知れません」
「そんな、いくら何でもそこまで判りませんよ」
鴨居がフォローするも、島津はかぶりを振る。
「警察は、市民の安全を守るのが使命です。どんな犯罪の兆候も、見逃してはいけないと僕は思っています」
「署長」
島津の警察官としての
「室長、この後少しだけ、鴨居君をお借りできますか?」
「え? あ、構いませんが、何か?」
突然の要請に戸惑った目黒が訊き返すと、島津は再び鴨居を見て答えた。
「荻原拓司君のお宅へ、案内してもらいたいんです。ご遺族に、ご報告をしなくてはいけません。一緒に行ってくれますか?」
鴨居は相好を崩して頷いた。
「勿論です!」
〈「Hello! あぶない新署長」了〉
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