第4話
まだ静火と志津水が幼かった頃。二人は同い年の親戚同士で家も近かったので良く一緒に遊ぶことがあり、あの日も二人は静火の住んでいる本家で一緒にいたのだが、二人が一緒に庭にでたときである。
一本の元気のない木の下に来ると、何の気なしにに志津水が静火に言ったのだ。この木を元気にさせることができるかやってみて、と。
自分に癒やしの力が未だ発現しないこと、そして横にいる志津水が既に癒やしの力を発現させているのを幼いながらも気にしていた静火はしばらく躊躇していたが、志津水がなおもやって見せてくれと言ってくるので静火は木に手をあてて――そしてあの悲劇が起こった。
「嘘でしょ……? 私、全然そんなこと覚えてないわよ!? あの時、私は一人で庭にいて……」
「しーちゃん……あれが起こった後、すぐに長の元に連れられていったから……多分、長がしーちゃんに何かしたんだと思う。わたしも、あれから長に話さないようにって言われたし……ごめんねぇ、今まで黙ってて。私があの時あんな余計なことを言わなければ、しーちゃんがあの力を出すこともなかったのに……あぁ、ついでにもう一つ、しーちゃんに言っておくね。今でないと言えないだろうから」
何も言えず愕然としている静火にゆっくりと微笑みながら志津水は告げた。
「わたしね……しーちゃんのこと好きだったんだ、昔から。一族の皆に何を言われてもいつも顔を上げて前を向いている強いしーちゃんが、凄く格好よくて……憧れてたんだ……ごほっ!」
「志津水!」
再び血を吐く志津水の体を静火はきつく抱きしめた。
自分は決して強いわけじゃない。ただ、そうするしかなかったから。親殺しと罵られようとも自分のせいで母親が自死したのは紛れもない事実であったから、ただそれを受け入れてきただけなのだ。刃向かう気力も、意地も、根性もなく、ただ開き直っていただけなのに。
それなのにこの子はそんな私を格好いいと、強いと言うのか? 自分が志津水のことをどれだけ嫉妬して、羨んでいたのかも知りもしないで!
「……冗談じゃない」
ギリッ! と静火が奥歯を噛みしめる。
「冗談じゃないわよ!? なに勝手なことを言って決めつけてるの!? アンタは私のことなんかなんにもわかっちゃいない! それなのに自分の言いたいことだけ言って終わらせるつもりなの!? そんなこと――そんなこと絶対許さないわよ! このバカ志津水!」
「……あ、はは……子供の頃以来だね……しーちゃんにバカって言われる……の……」
「ああもう喋るなって言ってるでしょう!」
段々と息も絶え絶えになってくる志津水を静火は抱きしめるしかなかった。そしてこの時ほど自分に「癒やしの力」が無いことを悔しく思うのと同時にこうも思った。
自分が志津水の代わりに怪我をすれば良かったのに、と。
その瞬間
「……え?」
一体何があったのか、静火が触れていた志津水の体の皮膚が急激に腐り始めたではないか! そう、それはまさにあの日、静火が庭の木を腐らせて枯らせてしまったあの時以来のことであった。
慌ててその手を離そうとした静火であったが、何故かぴったりと志津水の体に張り付き、更にその後信じられないことに腐った部位がまるで生き物のように静火の方へと移動したのだ!
「な、なにこれ!? なんで今になって――がはっ!?」
志津水の腐った部位が静火の方に全て移ると静火の体は剥がれるように離れ、そして直後に静火の体を激痛が襲った。内臓がら出血しているのが自分でもわかる、息をすることさえままならないこの痛み、これはまるで志津水が受けた傷のような……朦朧とする意識の中でそう思った静火が横を見ると、そこには今までの苦しげな様子が嘘のような、普段と変わらない志津水の姿があった。
「……あああっ! しーちゃん! 待ってて!」
先程とは逆に今度は志津水が息も絶え絶えになっている静火の所へ来るとその癒やしの力を発揮させる。
「無理よ……いくらアンタでもこの怪我では」
「黙ってて!」
呼吸が弱くなってきている静火の手を握って志津水は癒やしの力を出しながら願った。
どうか――どうか彼女を死なせないでくれ! と。
そうして志津水が力を行使してから数分後、静火の体に変化が訪れた。徐々に体から痛みが消えていき、呼吸が楽に出来るようになってきたのだ。
「はぁはぁ……大丈夫? しーちゃん」
「え? あ……うん、まだ少し痛むけれどもう大丈夫、動かすことは出来るから」
癒やしの力を使いすぎたのか、顔には玉の汗をかいて息切れを起こしながら問いかける志津水に静火は気の抜けた声で返事をした。
「ねえ、これって一体何なの? あなた、内臓を怪我していたのに私の力のせいで表面が腐り出したと思ったらそれが――」
「うん、腐った皮膚とかがしーちゃんの体に移動して、そうしたら怪我も私からしーちゃんに移動してた……?」
「それに、あなたあそこまでの怪我を治せるほどの力があったの?」
「まさか! さっきのしーちゃんの怪我なんて、長でも治せるかどうかわからないくらい酷かったんだよ?」
二人とも訳がわからない顔をしていたが、再び遠くから獣の鳴き声が聞こえてきたので取りあえずは森を出るべく一本道の方へと向かうため、まだ体が痛む静火に志津水が肩を貸し、二人はゆっくりと歩き出した。
そして二人は森を抜け一本道へ出たが、そこには意外な人物が二人を待っていた。
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