06
次の日、つぐみたちの居る商業施設を襲った大人たちは、いつもと違った。
いつもならゴム弾を持ってつぐみを生け捕りにしようとする大人たちは、今日は実弾を持っていた。そして、「抗体持ち」のつぐみにかまわず撃ってくる。
(こいつら過激派の団体だ)
数を減らした大人たちの中からうまれた民間団体には、「抗体持ち」の体の一部さえ手に入ればいいと主張するものもあった。それが過激派と呼ばれ、忌み嫌われるまで時間はかからなかった。
実弾を避けるうち、つぐみと沙惠は一階の女子トイレへと追い詰められていた。
バリケード代わりに置いた近くのインテリアショップのタンスに、銃弾が撃ち込まれる音がする。
「つぐみ」
「わかった」
言葉は少なくても、つぐみには沙惠が何をいいたいのか分かった。そのままトイレの突き当たりの滑り出し窓を開ける。隙間は狭かったが、食料に常に困っているガリガリの二人ならなんとか通ることができそうだった。
「のって」
沙惠の言葉に促されるまま、足場になった彼女の背にのり、窓の隙間をすり抜けた。周囲をよく確認する。大人がいないか。民間団体に通報しそうな人間は居ないか。
つぐみの出た路地は運良く人が居なかった。
「沙惠! 大丈夫!」
「手、出して」
つぐみは窓枠を足場に、外の配管につかまった。そして沙惠のふんばりのきく右手の方を握る。その時、ちらとつぐみの心に不安がよぎった。沙惠がいま撃たれたら、四本指の左手では反撃できない。彼女は左手だけでは銃を撃てない。
「つぐみ!」
苛立った沙惠の声に背を押されて、彼女を窓の外に引き上げようと力を込めた。つぐみの予感が当たったのはその瞬間だった。
ばあん!
鼓膜を破るような音がして、つぐみの腕の先が熱くなった。握っていた沙惠の手の感触もなくなった。痛みが脳の中で暴れ回る。
必死に目を向けたつぐみが見たのは、自分のふきとばされた左手と、同様にふきとばされた沙惠の右手だった。
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