新生活、始まる前から波乱な話。
「よしっと……。ふぅ。こんなもんで荷物は整理出来たかな?新しい寮生活に向けて。」
時が過ぎ、ようやく寮への移動が可能となった……。今週末の土曜日。
俺は朝早くから、学校指定の特別学生寮に午前中の内に到着して、直輝と話し合っていた通り、たった今、引っ越しの荷ほどきの作業を終えた所であった。
「(しかしこの寮。結構広いし、部屋の作りも綺麗で……。割といい感じに整ってるな。
しかも、一人暮らしにしては中々に広い造りの部屋だし、俺の部屋からは想像も出来ない位のホントいい部屋に決まったな。)」
そして俺は、これから暮らしていく洋室に目をやり、ふと先程寮の前で会った。恐らく寮の関係者と思われる女性の言葉を思い出す。
「確か……。大きな荷物はまだ荷ほどきや運び込みはしないでくれって言っていたよな?
手荷物と少しの小説の類を持って来た訳なんだけど……。そもそもこういうのって、普通大きな荷物から先に部屋に運び込む物なんじゃないのか?何となくの感覚だけど。」
とは言え、もしかするとこの寮の決まりか何かで、運び込める大きさや量に制限などが存在するのかもしれない。
あんまり大きな洋服棚やインテリアはダメとか……。まあ何か、そんな感じの理由で。
しかし、大きな荷物を部屋まで運び込まなくてもよくなってしまった為、想定以上に時間が多く余ってしまった。
そのため、俺はとりあえずの時間潰しとして、この寮の中でも探検してみようと思うのだが……。どうしよう。
窓越しには俺の一応の運命の相手。ホント何かの間違いで、その相手に選ばれてしまった女性である
そして、このまま俺がこの寮を探検しようとすると、漏れなく彼女に鉢合わせる可能性が十二分にあるというような状況である。
そのため、俺がこの後とれる行動は二パターンあり、このまま小川さんに鉢合わせする可能性がある事を自覚しつつ、好奇心と暇つぶしから寮の中を見て回るか、もしくは彼女に会うのは気まずいとして、このまま部屋で時間を潰すかの二択である。
勿論俺としては、そんなわざわざ地雷を踏み抜くような真似をせず、このままこの部屋で小川さんを躱すに限るとそう思ってやまない筈なのだが……。何でだろうか?
そう思えば思う程。昨日、ゆりさんが別れ際にした何とも言えない難しい顔。それが俺の脳裏に浮かび、こちらに問いかけるのだ。『ホントに君はそれでいいの?』と……。
そして、それが頭に浮かぶと、どうしても今の自身の行動を振り返ってしまい……。その在り方について疑問を抱いてしまう。
最初から苦手だと決めつけて、一度も彼女を理解しようとしていない自分について。
ーーとは言え、正直それ以外にも、個人的に気にしている事は少しあって……。
「(うーん。でも俺は……。このまま小川さんを避け続けていて本当にいいんだろうか?
正直、この数日間。俺は学校にいる間、いつもより小川さんを見る時間が(席が隣になった事も含め)多くなったけど……。基本的に俺の方からは、彼女に何か話掛けたりはしなかったんだよな。普通に俺みたいのが話掛けていいのか?ってのもあるけど……。何より、俺が小川さんを勝手に怖いって思って。その……。苦手な意識があるから。)」
しかし現実的な問題として、これから少なくとも1年以上は小川さんと行動する事が、これまでよりも(プログラムによって)多くなるのは確実であり、今までのように、彼女を極力避けて生活続ける事は、あまりにも現実的な話ではないのである。
とまあ、ここまでややこしくアレコレと考えてしまったが……。要は、このまま小川さんを避けているだけではダメだという事だ。
なので俺は当初の予定通り……。あくまでもメインは寮内探索だと自分に言い聞かせながら自室のドアを開けて、部屋の中から少しだけ顔を出して外の様子を伺う。
流石に俺だって、扉を開けてすぐ目の前に小川さんが立っているような、ある意味ホラーな体験なんて事はしたくないのだ。
「えっと……。まだ誰も……。いないか?」
そして、俺は視界に誰も映っていないのを確認し、カチャリと扉を開けて廊下へ出る。
すると、廊下を出てすぐちょうど曲がり角に差し掛かった辺りで、誰かの話し声が曲がり切ってすぐの方から聞こえてきて……。
「ーーとに良かったね。山崎くん。綺麗な部屋で!あんまり多くの私物は持って来てなかったし、この広さなら……。私たち二人分の荷物を詰め込んでも大丈夫だね!さっ!早く部屋に入って荷物の整理始めよ?」
「う、うん、そうだね!これから二人で暮していくんだから……。まずは金子さんの大きな荷物から部屋に運び込んじゃおうか。うん!二人で頑張っていこうね?」
そして、二人はお互いに微笑み合うと、男子の方、先程山崎くん(と言われていた気がする人)が先行する形で入室して、女子の方(記憶では恐らく金子さん)の荷物を二人で運び込みに行ったのだろう。
しかし、そんな事よりも重要なのは、二人の動向ではなく……。今何て言っていた?
正直それが、何かの聞き間違いであって欲しいと願うが……。俺の聞き間違いでなければ、二人して聞き捨てならない事を、お互いに照れながら言っていたような気がする。
「(な、何か……。いきなり、とんでもない事を聞いてしまったような気がする……。
今あの二人。これから二人で暮らして行くような事を言っていたけど……。まさか、一緒の部屋で暮らすって意味じゃないよな?
この寮でひとつ屋根の下になるって、そういう意味で言ってたんだよな?)」
これは多少、俺の願望も混じっているのだろうが……。流石にこれに関して言えば、そうであって欲しいと言わざるを得ない。
正直、小川さんと席が隣になるだけならまだしも、生活空間まで一緒になってしまうとなると……。ホントに俺の心労やその他諸々が半端ない事になってしまう。
だから、俺の想像(と言う名の願望)が正解であって欲しいと思いつつ、急遽予定を変更して、先程会った受付?の女性に会いに行こうとして……。軽く絶望した。
なぜならそこに、件の女性に詰め寄る小川さんの後ろ姿があったから……。
ーー次話へと続く。ーー
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