運命の相手が自分のことを嫌っているクラスメイトだった話。

初対面から何だか落ち着く彼女の話。

「ふぅ……。やっぱり屋上（ここ）はいい風が吹いていて、定期的に来たくなる場所だなぁ。

　放課後には他の生徒たちがいなくなるし、夕焼けはとてもキレイで……。なぁ君もそうは思わないかい？中峰くん？」

　他に生徒が誰もいない俺ともう一人の女生徒がいるだけの……。放課後の屋上。

　そして俺は、そこでほぼ初対面の女性。恐らく、俺の憧れである大橋さんの友達であろうと思われる彼女との二人きりの対面。

　正直、女の子と二人きりというだけでも内心俺は緊張しているのだが……。

　しかしそれ以上に、人の話をあんまり聞かないこの人から一体何を言われるのかと、不安と好奇心が半々といった所であった。

「（でも……。ホントに何でこの人はこんなにもキザな感じの喋り方なんだろう？

　まあ、見た目のボーイッシュな感じからも王子さま風で、似合ってないとは言えないんだけど……。何だか劇中の役者の芝居を見ているような不思議な気持ちになるんだよな。

　たぶん今も、俺の緊張をほぐす為にわざわざ話を振ってくれたんだろうけど……。）」

　とは言え、ずっとこのまま俺が黙っていても、文字通りに話が進まないので……。

「そ…そう、ですね。俺もここはいい所だと思います。あんまり人がいないし、言ってるように風も穏やかに吹いていて……。ここからの夕日も綺麗ですからね。」

　なのでとりあえず俺は、これも一つの話の切り出し方だと考えて、この屋上から見える景色をひとまず、彼女の話とは別に純粋な気持ちで眺めてみる事にした。

　しかし、そんな純粋な気持ちでこの景色を見てみると、意外にもここから見える景色は彼女がそう言って絶賛するだけはあると思える程とても幻想的な情景で……。

　それも含めて彼女の手の中なのかもしれないが、俺は緊張していた気持ちを忘れてしまう程に、ただその景色に見入ってしまった。

　すると、俺の緊張がほぐれた事を見透かしてか、彼女は「じゃあ……。そろそろ本題にでも入ろうか？」と、少しだけその表情を引き締めて話をし始める。

「まあ、ここまで君を連れて来て、わざわざ二人っきりになったのは……。君と直接会って話したい事があったからなんだ。

　ああ、勿論だけど……。これから話す内容は誰にも他言無用だよ？こうやって私が君に話すのも、君をある程度信用しているからこそだから、そこは了承して欲しいな。」

「えっと……。そうですね。はい。元から他言するつもりもそれをする相手もいないので、そこは安心してもらって大丈夫ですよ。

　その……。大橋さんのお友達の方？」

「うんうん、君が快く二つ返事してくれて私は嬉しいよ。じゃあこれから、私の事は親しみを込めて百合恵（ゆりえ）でも、ゆりちゃんでもどちらで呼んでも構わないから……。どうか好きな方で呼んでくれたまえ。

　ちなみにおススメは、柚希（ゆずき）も呼んでくれる『ゆりちゃん』の方だから……。中峰くんも私をそう呼んでくれて全然構わないよ？」

　そして、俺の返答に少しの空気の弛緩を生じさせた彼女、百合恵（ゆりえ）さんことゆりちゃんさんは、相変わらずの押しの強さで、急速にこちらとの距離感をぐいぐい縮めてくる。

　しかしながら、ほぼ初対面に近い女の子をいきなり愛称で呼ぶのは、流石にハードルが高過ぎると思って、「いや、名前呼びはちょっと……。」とやんわり拒否してみたものの、安定の押しの強さで『ゆりちゃん』呼びをゴリ押しされてしまう始末だ。

　なので俺は、仕方なく百合恵さんの『ゆりちゃん』呼びを了承し、彼女に俺となぜ話したかったのかについて尋ねる事にした。

「それで……。ゆりちゃんさん。今日このタイミングで俺に会って話したかった内容っていうのは、一体どういった話なんですか？

　その……。大橋さんについての話であるという事は、俺も承知しているんですけど。」

「ゆ、ゆりちゃんさん？まあ、君がそう呼びたいのなら、私は別に構わないけど……。

　おほん！じゃあ、早速話をさせてもらうその前に！正直に答えて欲しいんだけど、君って……。柚希の事好きだよね？当たり前の話だけど……。勿論、恋愛的な意味でのね？」

　すると、俺の妥協に妥協を重ねた上での呼び方に、少し困惑気味であったゆりちゃんさんだが……。咳払い一つしてから、再びきりっと表情を引き締めると、そのようないきなりぶっこんだ話を彼女は俺にする。

　しかも彼女のその質問自体、ほとんど断定するような形で俺に尋ねており、それが事実である上に彼女が大橋さんの友達であるという点からも、中々に「そんな事実はありません！」と、強く否定しづらい。

　だが、そこは少しの抵抗として「ど、どうですかね？」と、ゆりちゃんさんの問いにしらを切って誤魔化してみた所……。

「ううん、そんな風に誤魔化さなくても大丈夫だよ。勿論、それは予め知っていた事だからね。それに……。知っていたからこそ、こうして声を掛けさせてもらった訳だし……。

　そもそも私は、君が柚希に釣り合わないとか、彼女の事を好きになるなとか……。そんなしょうもない話をする為にここまで君を呼んだ訳じゃないからね？」

「えっと……。それはどういうーー」

「ふう……。じゃあ、今から大体一か月前位の話をしようか。もう誤魔化さなくていいけど……。ちょどその頃かな？君はよく私たちと言うか、柚希の事をよく観察してたよね？

　あっ！それはその事を非難するとか……。そういう話じゃなくてね？あくまでも、事実としてそうだったよねって話なだけで。その認識は間違ってないよね？」

　そうして、せめてもの抵抗を見せた俺に、ゆりちゃんさんは特大のストレートでそれに応戦して、俺が特に後ろめたく感じていた事実をド直球で提示すると同時に、彼女はその事実について淡々と指摘する。

　しかし、それらについて……。まさかバレていたとは思っていなかった俺は、内心とてもバクバクであり、とてもじゃないが、そのまま彼女の話を黙って聞いていられる程、落ち着いてはいられなかった。

　だが……。あわあわと言葉にならない声で慌てる俺に、ゆりちゃんさんは「まあ、落ち着いてくれ。さっきも言った通り、別にそれを責めているという訳では全然ないんだ。」と、彼女はあくまで事実を述べただけで本当に俺を責める気はないようである。

　そして、それでも挙動不審な俺に、ゆりちゃんさんはそのまま話を続けて……。

「まあ、それについては大丈夫だから。柚希にはその事は直接伝わってないし……。他の人たちにも、それは問題行動としては伝わってはいないと思うよ。」

「な、なんでバレてないって……。そんな事が分かるんですか？隣にいたゆりちゃんさんが気付いていた位だし……。流石に本人には、俺がその……。よく見てたって事もバレてるんじゃないですか！？」

「いや、勿論それについても大丈夫である理由はちゃんとあるよ。柚希がその事実を知らないという事についてもね……。

　とりあえず、その理由について説明するのに合わせて、私は君にまず謝らないといけない事があるんだ。だから少しだけ落ち着いて、これから話す私の話を聞いて欲しい。」

　そうして、彼女が口にした話については正直驚く内容が多く、意外に壮大なスケールの話だという事を知ってしまったのだが……。

　今回の件でよく分かったのは、目の前にいる彼女が、その言動に反してかなりクレバーな人物であるという事であった。

　ーー次話へと続く。ーー