平凡ではあるが平穏ではない話。
「……で、なっつんとオオハシさんはなんでそんなにバチバチになってたのー?色んなウワサ話のその全部を鵜呑みにする訳じゃないけどさー。何か二人とも……。変にみんなから注目されちゃってるよ?」
「「…………。」」
朝の教室での一幕。AIによる『運命の相手』に関する発表から一夜明けて、昨日の放課後の出来事が忘れられずにいた矢先に起きたこの状況である。
俺は今、学年でも有数の美少女たち。小川さんと大橋さん、それにクラスの中心的存在でムードメーカーの内田さんの三名に囲まれて、朝から異様な緊張感に包まれていた。
そして、そんなこちらの緊張した空気を感じ取ったのか……。他のクラスメイトたちもシーンと異様に静まり返っており、皆一様にこちらの様子を伺っている。
「(てか……。完全に俺、このメンツからして浮いちゃってるんだよな。二人が喧嘩してたのもそうだけど、そもそも何で小川さんと大橋さんは俺の席の近くにいたんだろ?)」
すると、そんな俺の疑問を他所に、内田さんからの問いに対して、その友人である小川さんが少しだけ食い気味になって答える。
「いや!コイツが……。大橋が勝手に私に突っ掛かってきただけだから!そもそも、私が中峰の席の隣に座ってたのだって、昨日の発表が原因なだけだし。」
「はい?それを言うならアナタが……。小川さんが先に私に声を掛けてきたでしょう?
中峰くんの席をクラスの方から聞いて、近づいた私に向かって『そこどいてくんない?あと席の近くにいられたらウザいから、早く自分の教室に帰ってね。』などと、傍若無人な事を突然言い出して。」
すると、そのように食い気味で言った小川さんの言い分に、間髪入れず大橋さんも言い返して、再びギロっと、お互いに視線だけでお互いの事を無言で牽制し合っている。
しかし、双方の言い分を聞いて俺が思うのは……。やはり、なぜ俺の席の近くに二人がいるのかである。大橋さんは恐らく何かしらの話があってそこにいたのだと思うが……。小川さんの言う『昨日の発表が原因』とは?
そのため、俺は自分がこの場でかなり場違いである事を自覚しつつ、恐る恐る小川さんにその疑問について緊張気味で質問する。
「あ、あの……。小川さんの言っていた『昨日の発表が原因』で、俺の隣の席に座っていたというのは?確か小川さんの席はもう少し前の席だったような……。」
「うんうん!カリンもそれ思ったー!なっつんの席って普通にそこじゃないじゃん。何でそこの席が自分の席だって言ってるのー?」
そして、俺が口にした疑問の言葉に追随する形で内田さんも疑問の言葉をぶつけると、俺の言葉にはこちらの方を見向きもしなかった小川さんであるが、内田さんには渋々と言った様子でその疑問を溜息と共に答える。
「はぁ……。だから、その……。何?ホント嫌なんだけど、私の『運命の相手』が……。コイツだった訳じゃん。だから、その一環として、私の席がコイツの隣になったの。
寮に引っ越しとか、そういう本格的なのは今週末からだけど……。こういう簡単なのから順に始めていくんだって。最悪だけど。」
しかし、そう言って溜息を吐く小川さんの様子は、気怠げと言うよりも……。どことなく、照れているようにも見える?(まあ、口にした言葉はかなりキツめだけど……。)
すると、そんな小川さんの様子を俺がちらちら見ていることに気づいたのか……。彼女は再びギロリと鋭い視線を俺の方へと向けるが、少ししてその仏頂面をふいっと背ける。
しかし、そんな仏頂面でこちらから顔を背ける仕草も、美人な小川さんがやるとやたらと絵になっていて……。何だか、それをじっと見ていた俺の方も意味もなく恥ずかしくなって、思わず顔を背けてしまう。
すると、そんな何とも言えない空気感の中「あの、中峰さん?」と言って、くいくいと俺の制服の袖を引っ張る大橋さんが困惑した様子でこちらを見上げていて……。
「何だか、小川さんが言っている意味がよく分からないのですが……。彼女は何を言ってるんですか?これではまるでーー自分が中峰くんの『運命の相手』だと言っていたように思えるのですが……。まさかそんな偶然はありませんよね?私への当てつけですよね?」
「うぇ!?あ、あの……。それは……。」
しまった……。完全に大橋さんとのある約束の事についてを失念していた……。
そもそも、今のこの状況も相当ややこしいのだが、俺に『運命の相手』がいると、かなりその約束にも不都合に働いてしまうのだ。
そして、その相手がいて、その相手が小川さんだと言う事を、俺は大橋さんに伝えるのを完全に忘れてしまっていたのだった……。
すると、俺の思わず口ごもってしまった様子を見て、大橋さんは何とも言えない表情を浮かべると、昨日の食堂と同様、こちらの方にスッとその綺麗な顔を寄せて……。
「……中峰くん!一体これはどういう事ですか!?もし彼女が……。小川さんが中峰くんの運命の相手であれば、私の親友であるゆりちゃんを紹介し辛くなるじゃないですか!
ご迷惑をお掛けした中峰くんへのせめてものお礼として、中峰くんが入学当初からよく見ていたゆりちゃんとの仲を取り持たせて貰おうと、そう思っていたんですけど……。」
と、小声ながらもその真摯な姿勢が伝わるような、あくまでも、そのお礼が俺への恩返しになると信じて疑っていない様子である。
……だからこそ、とても困っているのだ。
「(まあ……。そもそもの話。俺が大橋さんから提案をされた時に変なのっかりをしたのが一番悪いんだよな。
何と言うか……。憧れの相手に、直輝の言う所のストーキングしていた事を知られていたっていうのがすごい衝撃的で……。思わず大橋さんを見ていた訳じゃなくて、そのお友達である『ゆりちゃん』さんを見ていたっていうその話に、深く考えずにこっちから乗っかっちゃったんだよな……。
そのせいで、こんなややこしい状況になってるのが、我ながら優柔不断が過ぎる。)」
しかし、そんなきっかけが無ければ、憧れの大橋さんとこうして話す事は出来なかったと思うので……。この状況について、最悪な状況などと口が裂けても言う事が出来ない。
そのため、俺は一体どうしたものかと、頭の中で試行錯誤していた所……。
「ふーん。大橋みたいな真面目ちゃんな女でも、
「な、何ですか?そんなの小川さんには関係ないでしょう?私がそういう話を気にしたとしても……。そ、それに!別に私が中峰くん(のそういう話)を気にしているとか……。そう言った事ではありませんから!へ、変な誤解をしないで下さい!」
「何々?オオハシさん、ナカミネくんの事気になってんの?ほぇー、何か意外だねー。」
「ち、違います!どうしてそういう話になるんですか!?ただ、小川さんがいると不都合というだけで……。全然そんな話じゃありませんから!ホントですよ!?」
すると、俺の全く関与していない所で、大橋さんが盛大に自爆してしまい……。あたかも、大橋さんが俺に『運命の相手』がいる事が不都合であるような、聞いている側が誤解してしまうような発言を、彼女はクラスメイトの面前でしてしまうのだった……。
そして、この発言をきっかけに大橋さんが俺の事が好きで、小川さんが俺の『運命の相手』に選ばれた事を疎ましく思っているという、事実とは全く異なるウワサが生徒の間で囁かれてしまうのだが……。
何と言うか……。たった二日しか経っていないにもかかわらず、俺の日常がガラガラと音を立てて崩壊していくような、そんな不思議な感覚に陥ってしまうのだった……。
ーー次話へと続く。ーー
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