いつも通りの朝がいつもと違った話。
「おい……。見ろよ、アイツが……。」
「えっ?アイツって……。例の羨ま妬ましい事になってたっていう…男か?嘘だろ!?」
「でも、出回ってた写真からして間違いないって!大橋さんと小川さんが、あの……。中峰?とか言う奴を挟んで、昨日の放課後、言い争ってたんだよ!」
「マジかよ……。って事は、大橋さんが鷹宮の相手から外れたってのも、まさかアイツとの事が原因なのか?」
「ああ、きっとそうだ。他の組の女子たちが裏では大橋さんも中峰って奴と仲良くしてたみたいな事を言っていたらしい。その状況だけでも羨ましいのに……。あの小川さんの運命の相手に選ばれるなんて。」
「いや……。逆に大橋さんと裏で仲良くしていたからこそ、あの小川さんの運命の相手に選ばれるなんて事になったんじゃないか?」
「それは……。確かに。そうなのか!?」
いつも通りの朝。いつもと同じ通学路を歩く俺は、いつもと同じように一人その道で登校しているのだが……。どうしたのだろう?
何かさっきから、皆俺の方を見て口々に何かを話していると言うか……。正直、あんまり見られて気分のいいタイプの視線を向けられていないような気がする。
「(うーん。やっぱり、何かの間違いとは言っても……。あの小川さんの『運命の相手』として選ばれたのは大きかったのかな……。
俺自身、あんまり変な目立ち方はしたくないんだけど、大橋さんとの件もあるし、変なウワサとか立たないようにしたいなぁ。)」
とは言え、そのまま周りの生徒たち(主に男子たち)から変な視線を集め続けるのも、何だかそれはそれで居心地が悪いので……。俺はそそくさと足早にその場を後にする。
その間に、誰かが俺の名前を呼んだような気がするのだが……。まあ、恐らくクラスメイトの誰かがウワサ話で俺の名前を口にしたとか、きっとそんな所だろう。
そうして、俺は周りの視線や俺を呼ぶ?声を無視して学校に向かい、いつもと同じ朝の時間を迎えるのだったーーいや、迎えるつもりだったのだが……。俺のいない間に一体何が起きたと言うのだろうか?
俺がようやくといった感じで学校に到着し、少しだけ重く感じるドアを開けて、教室の中に入ろうとした所、俺の視界に入ってきたのは二人の女生徒。小川さんと大橋さんの何かを言い争う姿であった……。
しかもなぜか、俺の席の前に大橋さんがいて、その隣の席(同じクラスの葉加瀬くんの席)には小川さんが座っているという……。
一見すると、二人が俺の席を挟んで談笑しているように見えなくもない。
まあ、小川さんがむすっと、大橋さんが硬い表情で話し合っていなければの話だが。
しかし、二人は言い争いに集中しているのか、まだ俺が登校した事に気付いていない。
そのため、俺は黙って盗み聞くのは申し訳ないと思いつつも、そっと二人の方に近づいて、その会話を聞いてみる事にした。
「ーーあの……。あなたはどうして、わざわざこの席の隣に座るんですか?恐らくですけど、そこはあなたの席じゃないですよね?」
「はっ?よく分かんないのに、どうしてここが私の席じゃないって言える訳?て言うか、そもそもアンタは違うクラスでしょ。早く自分のクラスにでも帰れば?」
「「…………ふん。」」
やはりと言うか何と言うべきか……。まるで二人の周りの空気だけが凍りついているように錯覚させる程、彼女たちは周りに人を寄せ付けない空気感を出し続けており、お互いがお互いの事を牽制していた。
そして、これまた何の嫌がらせなのか、二人は絶賛俺の席の周辺で言い争っている。
正直、小川さんはクラスメイトなのでここにいる事も理解出来るのだが、大橋さんに関しては完全に他クラスの生徒なので……。何でここにいるのかが分からない。
そして、このままでは埒が開かないと思った俺は、二人が言い争いをしている中心地、自身の席に向かおうか悩んでいると……。
「おろ?そこにいるのは……。今すんごい話題のナカミネくんじゃん。どったのー?そんなとこでボーッと突っ立っちゃって?」
突然背後からそのように声を掛けられ、俺は驚いて振り向くと……。そこには同じクラスで小川さんの友達。クラスの中心的存在である
しかも、今日初めて内田さんから話し掛けられたにもかかわらず、俺の名前を覚えてくれていたという微妙なオマケ付きだ。
「(何て言うか……。内田さんに俺の名前を覚えられていた事は、素直にクラスメイトとして良かったと思うけど……。逆に内田さんたち上位カーストの女子にもウワサされてるっていうのは……。正直、ウワサされている身からすると不安しかないんだよなぁ。)」
そもそも、内田さんが俺の名前を覚えていたのも、もしかすると色んなウワサで耳にしたからかもしれないし……。そう考えてみると、このように名前を覚えられ、声を掛けられた事も素直に喜ぶ事は出来ない。
けどまあ、これも当たり前の話ではあるのだが、女子から……。それもクラスの中心的な存在である内田さんに話し掛けられて、それを無視する事など、俺を含めた殆どの男子が出来る訳がないので……。
「あっ……。い、いや……。なんでもないよ!ただ、俺の席に小川さんたちがいるなぁって、そう思って立ち止まっただけで……。
ご、ごめん、ここに立ち止まってたら邪魔だよね。すぐに退くよ!」
俺は内田さんとの初会話に緊張しつつそう言うと、早めに話を切り上げようと思い、そそくさとその場を後にしようとする。
我ながら、クラスメイトの女子相手にかなり情けない行動だとは思うが……。正直、普通の女子ならまだしも、俺とは文字通り別世界の人間である、ギャル系女子との話し相手はあまりに荷が重すぎる。
なので、俺は内田さんの返事も待たず、とりあえず彼女に道を譲るために軽く身を引いて、彼女を先に行かせようと試みた所……。
「んー?何でナカミネくん、いきなりそんなへこへこしてんの?昨日は
カリンてっきり、ナカミネくんが二人で両手に花?でもしようとしてるのかと、そんな面白そうな事考えてたんだけどなー。」
「…………は、はい?」
しかし、なぜか内田さんは俺が身を引いたにもかかわらず、先に行こうとはせず……。
むしろ、俺の正面に立ち塞がるような形でこちらの方に歩み寄ると、彼女は意味の分からない事を言って謎に残念がっている。
すると、思わず出た気の抜けた声に小川さんたちがこちらの存在に気が付いて……。それぞれ「華鈴!」「中峰くん!」と、二人全く同じタイミングで俺と内田さんの名前を呼ぶと、こちらの方にスタスタと二人とも歩み寄って来るのだった……。
ーー次話へと続く。ーー
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