運命が交錯する話。
「あー、もう!ホントマジで最悪!まさかあたしの『運命の相手』があの根暗で地味な中峰だなんて……。今日程神さまを呪った日はないっていうか。この決定って……。どうにか、ひっくり返せたりしないのかな……。」
空き教室の一角。私、
事の発端は先程行われた最新AIによるその人の運命の相手を決定するイベント。確かそれは政府の少子化対策で近年導入された、より円満なカップルを誕生させる為に作られたシステムらしいのだが……。これの結果がホントにもう散々だったのだ。
私は今日という日の為、毎日何かと用事を作って同じクラスの鷹宮くんーー私が生まれて初めて『もしかしてこの人が、自分の運命の相手かも?』と思った彼に、事ある毎に話し掛けてみたり、彼の役に立とうとしたりと、色々と地道な努力をここ数か月間積み重ねてきた……。それだとというのに。
「(その結果は……。よりにもよって私の一番嫌いな金魚の糞。鷹宮くんに話し掛けてもらってるだけでしかない
しかし現実はとても残酷で……。私がそんなあり得ない発表に抗議の声を上げる横で、鷹宮くんの運命の相手が発表されたのだ。
勿論、相手は私の名前ではない。よりにもよって、私が一番聞きたくなかった名前。今日の午後、突然ぽっと出の鷹宮くんとのウワサ話が出てきた
しかも、それに加えて不愉快だったのは、そんな……。私からすれば鷹宮くんと運命の相手になれる千載一遇のチャンスを、あの女は……。どうやら、例外の適用か何かによってふいにしてしまったのだ!
その
とは言え、そんな大橋の行動についても、少々不可解な点が存在していて……。
「(でも……。何か引っかかるのよね。ウワサでは誰か意中の相手がいるからとかで、その権利を放棄したらしいけど……。私の情報網では、そんな相手の存在なんて知らないって、他クラスの友達は言っていたのよね。勿論、他の学校の生徒である可能性も、捨て切れない訳ではあるんだけどさ……。)」
そして、私はそんな違和感を友達からの情報に感じたのだが、やはり、そんな事よりも自身の今後についての方が気掛かり……。と言うよりも、不安と抵抗の気持ちが大きい。
未知の経験への不安や自分の将来に対しての不確定感。それに……。自分とは相容れない存在との、形だけでも行われる括り付けへの抵抗感など、様々な感情でグチャグチャだ。
そんな漠然とした不安を抱きながら家に帰る準備をして、教室のドアに手を掛けようとした……。まさに、そのタイミングで……。
「ーーくん!やりました!私、ーーで説明して、ーー協力してもらったら、何とか、認めてもらえました!ありがとうございます!」
「ーーですよ……。お、俺が大橋さんを手伝えた事なんてホント、それくらいしかーー」
「いえ、それでも……。私はちゃんと中峰くんに助けてもらいました!突然のお願いでも、最後には了承してくれて……。私、本当に嬉しかったんです!」
「は、はぁ……。まあ、大橋さんが良かったのであれば……。俺としても、協力した意味があったんだと思います。」
こちらからは途切れ途切れにしか聞こえない。しかし、確かに一組の男女の話し声が、教室の扉越しにではあるが聞こえてくる。
そしてその会話の中には、思わず私が開けようとしていた手を止めて、スッと息を潜めてしまう。今まさに私が考えていた二人の名前がそれぞれの口から聞こえてきて……。
「(な、何…?何の話をしてる?少し聞こえた単語だけを聞くと、あの中峰が大橋を助けたって……。そんな風に聞こえたけど……。
そもそも、中峰と大橋って……。放課後、二人だけで話すような仲だった…の?)」
と、私は上手く聞き取れない二人の会話をもどかしく感じながらも……。何だか少しだけ自分の中に存在する、どこかモヤモヤとした気持ちについて認識した。
勿論それは、私の(暫定的な)運命の相手である中峰への嫉妬の気持ちなどではない。
これは私の……。自己本位だと言われても仕方のない。そんな二人に対するただの八つ当たりのような気持ちだ。
ーー片や何もしようとせず、自分からは何も選ぼうとしない者。片や何もかもを既に得ていて、自分からは何も求めようとしない者。
私はそんな……。自分から何もしようとせず、何もかもを当たり前だと感じている。
そんな彼らのような存在を最も疎ましいと感じ、そしてそれ以上に……。そんな当たり前を当たり前と言える事が、私にはどうしようもなく……。羨ましく感じられた。
だからこれは……。そんな二人への、やる事なす事の何もかもが上手くいっていない、私の勝手な八つ当たりだ。
「(とは言え……。それを抜きにしても、中峰の事は、何だか弱っちそうって意味でも普通に好きじゃないんだけどね。
でも……。大橋に関しては、私の勝手な逆恨み。運命の相手が私じゃなくて、別に鷹宮くんを何とも思ってないアイツだった……。ただそれだけの話なんだから。)」
そうして、私はこれ以上の盗み聞きはよくないと思い直し、少し思い切りを持って教室のドアを開けて、そのまま彼らに何も言わず、帰路に着こうと考えていた所……。
「……えっ?こ、小川さん!?ど、どうしてこんな奥の教室に一人で?
って、それより……。もしかして、さっきしていた俺たちの話。聞いちゃいましたか?」
「……別に。私がどこで何してようが、あんたには関係ないでしょ。……てか、早くそこどいて。私もう帰るから。」
「あっ……。小川さん……。」
すると、そのまま通り過ぎようとした目の前に中峰が立ち塞がり、あろう事か、いつもは絶対に話し掛けてこない私に対し、質問形式ではあるが自分から話し掛けてきたのだ。
正直、まさか中峰がこちらに話し掛けてくるとは思いもしなかったので、内心とても驚いてしまったのだけど……。そこは何とか平静を装って、私はどこかつっけんどんな言い方になりながら、そのように返す。
とは言え、その内心では咄嗟の中峰の行動に対して、少しだけその評価を改めていた。
「(なんだ……。こいつもいざという時には、こんな風に咄嗟でも動けるんじゃん。いっつも、モゴモゴと当たり障りのない行動しかしないから、そんな事とか……。全然出来ないって、勝手に決めつけてた。)」
そして、自分の印象だけだと……。ホントは知らない。そんな意外な一面が
目を向けると、そのまま通り過ぎようとした私の手を、それまで何も言わずに佇んでいた大橋が、こちらを引き留めるような形で掴んできたのだった……。
ーー次話へと続く。ーー
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