嫌な予感が最高潮な話。
「とりあえず、周りの視線が痛い状況でも、何とか教室に戻ってきた訳だけど……。
な、なあ!直輝。俺これからどうしたらいいと思う?正直、俺みたいな地味な奴が大橋さんと話すだけでも、内心ではかなりバクバクなんだけどさ……。」
「…………んぁ?」
ぼんやりと、先程の大橋さんとの食堂での話し合い(と言う名の打ち合わせ)を思い出しながら歩いていた食堂からの帰り道。
先程から、周りの生徒たちのウワサする声や少々居心地の悪い視線などは、特に意識する事なく感じる事が出来るのだが……。
さっきから俺の隣を黙って歩く男。俺の幼馴染み兼親友である、
そして俺自身、大橋さんとの一件について考えていたので、直樹の事を意識している余裕はなかったのだが……。
ようやく教室に戻り、少しの落ち着きを取り戻した俺は、そのまま放心状態のコイツを放置する訳にもいかなかったので……。とりあえず、さっきの出来事についての話をとにかく振ってみたのだった。
しかし先程の反応から分かるように、相変わらず今の直樹は、どこか惚けたような、そんな完全に心ここに在らずと言った様子だ。
「(て言うか……。そもそもなんで、直輝はこんなにも惚けた状態になってるんだ?
確か食堂から様子が変だったような気がするけど……。やっぱり、大橋さんに冷たくあしらわれた事が理由だったりするのか?)」
なぜそれが直輝が惚けている理由になるんだ?とは思うのだが……。事実として、それ以外の原因が思い付かないので、少しだけ話題を変えて、直輝を正気に戻そうと試みた。
「ま、まあ……。大橋さんには手厳しく言われちゃったけどさ。その……。あんまり気にすんなよ!大橋さんの場合、相手が悪かったっていうか……。お前自身が悪いとかそういう話じゃないないだろうからさ!」
などと、俺は直輝自身が悪かった訳ではなく、やや男性の事が怖いと言っていた……。大橋さんが相手だったという、その状況が悪かっただけだとフォローを入れ、直輝を正気に戻そうとしてーーえっ?
俺のその言葉に反応して……。という訳ではなく、なぜか突然「はあはあ……。」と言い出した直輝は……。とてもじゃないが見ていられないような、イケメンにあるまじき、キモイにやけ顔を晒していて……。
「な、なあ……。太一。俺正直、大橋さんの事は別にどうだっていいんだけどさ……。何かさっき、大橋さんに無下にあしらわれてから、何だか俺。変な感じなんだよ……。」
「ま、まさか……!?いやいや、落ち着け!(もし、変な気持ちに目覚めたとかだったら色々ヤバいし)ここはクラスメイトがいる教室だから……。せめて、他の誰もいない所でいくらでも聞いてやるから!なっ!?」
「ごめん、太一!俺、この気持ちを今すぐお前に伝えなきゃ、胸のモヤモヤが収まらない!俺、さっき大橋さんと話してから……。(色んな意味で)胸のドキドキが抑えられないんだ!どうしよう……。俺、こんな気持ちになったのは生まれて初めてなんだ!」
「ちょっ!おま!……って、はぁ。何でそれを、今ここで言っちゃうんだよ……。
あぁ、もうダメだ……。今度は別の意味で怖くてクラスメイトの顔が見れない……。」
ーーこれは一体何の冗談だろうか?
ただでさえ、先程の大橋さんとの一件で混乱している俺に対し、追い打ちを掛けるようにして、そこに同席していた直輝まで色々とややこしい状況を作り出すなんて……。
そして、そんな直輝の直球な言葉に対して、静かに聞き耳を立てていたクラスメイトたち(主に直輝に気があった女子たち)は、にわかにどよめいて……。
「嘘!?鷹宮くん、大橋さんが好きなの?」
「ホントに?やっぱり男って……。顔とスタイルが一番重要なのかなぁ。」
「あーあ、これでうちのクラスのイケメンは売約済みって訳かー。まあ、二人とも美男美女で……。すごい良い絵になるもんね。もしかすると、今日の放課後にようやく行われる『運命の相手の発表』だって、鷹宮くんのお相手、大橋さんだったりして。」
「それ分かる!やっぱり、美男は美女と引っ付いちゃうんだよねー。はぁ……。私も鷹宮くんみたいなカッコいい人が運命の相手だったらなぁ。まっ、望み薄だけどさー。」
と言った感じで、皆口々に直輝が大橋さんに惚れたのだと勘違いをして、その話題で教室中が騒然となってしまう。
中にはそのタイミング的に、今日の放課後行われる『AIによる発表』と関連付けている生徒もいて……。事実からかなりかけ離れたウワサになってしまう雰囲気まである程だ。
しかし、ウワサの当人である直輝は周りのそんな様子を全く気にしているような様子ではなく、寧ろ、その新たな感情に戸惑うどころか、どこか幸せそうに「はぁ……。また同じような体験は出来ないかなぁ。」と、全然違う方向に思考を働かせながら、そんな気持ちの悪い事を呟いている。
俺は今まで見た事のない直輝の様子に、流石に動揺(ドン引き)を隠せないでいると。
ーーカツカツ。カツカツ……カッ!
そんなイライラした感じで、机を爪でコツコツと鳴らすその音に、クラス中のウワサ話をしていたその声が、一瞬でピタリと静まり返って完全に聞こえなくなる。
そして、そんな静まり返った空間で、チラリと俺はその音の方に視線を向けると……。
「(うわぁっ!?な、何だ!?)」
まさにこちらに……。と言うか、直輝に目を向けていた小川さんがギロリと少しだけ視線が合っただけの俺を、これまで見たどの視線よりも恐ろしい眼光で睨みつけてきた。
そうして、そんな恐ろしい小川さんの様子に、クラスの生徒たちはその後一言も話す事が出来ず、午後の授業がそのまま始まった。
皆、色々と言いたい事もあっただろうが、その後の休み時間も、そのウワサ話を意図的に小川さんの前では皆が避けて、ついには放課後、『AIによる運命の相手の発表』の時間にまでなってしまっていた。
そして、いざ問題のAIによる結果発表になった訳ではあるが……。何だろうか?
その発表に際し、俺は本日何回目になるのか分からない嫌な予感が、これまでとは比べ物にならない程に感じられて……。
俺は未だかつてない不安な気持ちで、その発表結果を聞く事になったのだった……。
ーー多岐にわたる回想終了。始まりまで戻りつつ、次話へと続く。ーー
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