第41話 我が名は――――。

 手を広げるハートリーとネレム。

 それを見て、困ったのはゴッズバルドだった。


「やれやれ……。これじゃあ私が悪役じゃないか」


「良いではないか、ゴッズバルド。元々お主は悪人顔じゃ」


 現れたのは、国王と王妃だった。

 側にはユーリに斬られたまだ幼い王子もいる。

 意識を取り戻したのだろう。


「こ、国王陛下!」


 ゴッズバルドは膝を突くと、皆も倣った。

 立っていたのは、我とハートリー、ネレムだけだ。


「事情は何となく察した。本当に魔王なのか、ルヴル・キル・アレンティリよ」


「そうですと言っても、正直証拠をお見せすることはできません。ご要望とあれば、今すぐこの王宮を更地にしてみせることはできますが?」


 我の言葉に皆が動揺する。


 ここで嘘を吐いても仕方がない。

 我はルヴルであり、そして魔王でもあるのだから。


「ほっほっほっ……。言葉を繕わず、堂々と宣言するとは。なるほど。本物のようだの」


「陛下、この者が魔王であるないにしろ。この者が王宮を更地に変える能力を持っていることは確か。危険ですから、お下がり下さい」


「そして、この娘を逃がすつもりか、ゴッズバルド」


「はっ?」


「お前の手口はわかっておる。我が若かりし頃、お前の戦術を後ろから眺めておったのは誰だと思っておる」


「し、失礼しました……」


 ゴッズバルドは頭を下げた。


 どうやらゴッズバルドには何か考えがあったらしい。

 大方、我の邪悪さを喧伝し、人払いしたところで我を逃がす算段だったのだろう。


 だが、国王は見抜いてしまった。

 2人の仲は、どうやら我とハートリー並みに良好なものらしい。


「心配するな。悪いようにはせぬよ。それにこの国でもっとも強力な兵器である『聖剣』が通じなかったのだ。今さら魔王だなんだと慌てても仕方がない。それともお主ら、この者と一戦交え勝利する自信があるか?」


 国王は近衛の方を向く。

 すると、近衛たちは青い顔をしながら、プルプルと首を振った。


「であろうな。我も無駄に家臣を殺させるつもりはない。ただあえて言うが、魔王よ。あなたに頼みがある」


「なんですか?」


「うん。少し耳を澄ませ……。聞こえてくるはずじゃ」


 しばし沈黙が降りる。

 すると聞こえてきたのは、火が爆ぜる音。

 さらに悲鳴や嬌声。

 剣戟の音も聞こえる。


 戦乱たたかいの音だ。


「この音は……」


「王都で一体何が……」


 さらに動揺が広がる。

 だが、我には確信があった。


「魔族だな……」


「え?」

「魔族?」


 ハートリーとネレムは目を大きく開く。


「おそらくユーリが失敗した際、王都で反乱を起こす策になっていたのでしょう」


「そんな!」

「まずいでしょ!」


 今度は慌てた。


「残念ながら、こちらは劣勢だ。魔族どもの力は強い。王国の兵士だけでは難しかろう。いずれここにも来るであろう。この危機を脱する方法は1つしかない」


「まさか……」


 ハートリーは息を呑んだ。


「大魔王ルヴルヴィム。あなたの力を今一度お貸していただきたい」


 そう言って、国王と王妃は深々と頭を下げた。

 その姿を見て、ゴッズバルドも近衛たちも我の方を向いて、膝を突く。


人間の王よヽヽヽヽヽ……」


 我は元の口調のまま国王に呼びかけた。

 向こうが魔王を頼りにするのだ。

 ならば、我も魔王として対応するのが筋であろう。


「仮に我が魔族を討ち果たした時、我に褒美はあるのか?」


「無論だ。国で一番の褒美を与えよう」


「それはなんだ? 金銀財宝か? それとも権力か?」


「それがあなたの望みというなら、それも良いでしょう。ですが、余はそなたにもっと良い物を用意するつもりだ」


「良い物? ほほう。地位や金でもないなら、我に何を与える」


 国王は迷わずこう言った。



 自由を……。



 その言葉を聞いて、我は口端を歪めた。


「戦が終わった後、我は何をしてもいいというのだな」


「そう聞こえたと思いますが、いかがかな?」


「そなたに剣を向けるのも構わぬと」


「あなたに似合う剣があるというならば」


「確かに……。よかろう。そのお前の望みを叶えてやろう」


 我は皆に背を向ける。


 その動作にいち早くハートリーが反応する。


「ルーちゃん!」


「…………」


「戻ってくるよね」


「…………ハーちゃん。ありがとう」


「え?」


「ネレムも……」


「はい……」


「2人が友達と言ってくれてとても嬉しかった」


 だからこそ!


 だから守らねばならぬ。

 2人の友と、未来の友人を守るために……。


 我は地を蹴った。

 一気に夜空へと舞い上がる。


 すでに黒煙が空を覆っていた。


 赤い火の手を見ながら、我は【拡聲ヴァダイ】の魔術を使い、大音声を響かせた。


「我が名は、ルヴルヴィム。1000年の刻を経て蘇った――――」



 大魔王である!!



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


ついに魔王が解き放たれる……。


レビューいただきありがとうございます。

楽しんでいただけたなら幸いです!

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