第20話 八剣vs聖女

「オレを舐めているのですか?」


 ミカギリは目を細める。

 手に何も持たず現れた我を、憎々しげに見つめた。

 我はつい口端を緩め、言葉を返す。


「必要ないだけです。剣は1本で十分ヽヽヽヽヽヽヽですから」


「は? 何を言ってるのですか?」


「すぐにわかりますよ」


 問答は終わり、そこにスルスルと審判が現れる。

 両者を見合った後、やや声を上擦らせたまま開始を告げた。


「はじめ……!」


 最初に動いたのは、ミカギリだった。

 たん、と地を蹴り我との距離を詰める。

 重そうな武器をものともしない。

 ぐりぐりと捻転しながら、まるで烈風の如く我に迫る。


 当然、そこには容赦ない殺意がある。


 我でなければ、死んでいただろう。


 我でなければな……。


 バチッ!


 剣戟の火花が散るかと思えば、違った。

 先ほど烈風の如く迫ったミカギリの動きが止まる。

 それもそのはずであろう。

 ミカギリの大太刀を、我が両手で挟んで止めたからだ。


「――――ッ!」


 ミカギリが事態に気づいた時には遅い。

 我は大太刀を自身の身体に引き込む。

 体勢が崩れ、ミカギリの握力が一瞬緩んだ。

 我はそれを見逃さず、大太刀を取り上げた。

 そのまま我は大太刀の柄を握る。

 そのままミカギリの肩へと落とした。


「ギャッ!!」


 大猿のような悲鳴を上げる。

 肩を押さえて、ミカギリは蹲った。


 安心するがいい。

 峰打ちだ。

 我は聖女。

 人を癒やしても、傷つけることなどしない。


 まあ、魔王であったなら、消し炭にしていただろうがな。


「言ったでしょ? 剣は1本で十分と」


「き、貴様ぁぁぁあ! 返せ! オレの剣を!!」


 先ほどまで涼やかだったミカギリの顔が、怒りに歪んでいる。

 まるで猿が喚いているかのようだった。


 我は――――。


「はい」


 あっさりと大太刀を返してやった。


「貴様、愚弄しているのですか、オレを」


「返せと言われたから返したのですが……。まだ続けますか?」


「当たり前だ」


 ミカギリは気勢を吐いて、大太刀を構える。

 だが、肩の傷が響いて、思うように動けない。



 さあ、回復してやろう。



 我は回復魔術を放つ。

 無論、ミカギリに向かってだ。


「何をしているのですか? 敵に回復魔術など」


「ご心配なく、単なる私のポリシーです」


「ぽ、ポリシー?」


「先ほど申し上げましたよ。傷付いた者を回復させるのが、聖女の務めだと」


「わかった。もういい。……後悔しないで下さいね」


「残念ながら、生まれてこの方後悔などしたことなどありません」


 再び問答が終わると、ミカギリの殺意が高まる。


 また地を蹴った。

 先ほどよりも速い。

 なるほど。本気ではなかったのか。


 何故、最初の一刀から本気を出さなかったのかわからないが、おそらくコンディションが悪かったのだろう。


 我の回復魔術を受けて、本気を出せるようになったに違いない。

 うむ。どうやら、少しは我の回復魔術もマシになってきたようだ。


 だが、この者の弱さまでは回復できなかったらしいがな。


 ガキィン!


 ミカギリは弾かれる。


「え? 今、何が起こった」

「ミカギリ先輩が、ルヴルさんに迫っていったら」

「ミカギリ先輩が吹っ飛ばされたぞ」

「何が、どうなってるんだよ、この戦い……」

「あたいは、夢でも見てるのか?」


 周囲は困惑していた。

 だが、一番動揺していたのはミカギリだろう。

 何故、自分がここにいるのかすらわからないといった様子だ。


「ジャアク、お前何を――――」


「動かない方がいいですよ、先輩」


 その瞬間だった。

 ミカギリの肩口から血が溢れたのだ。


「げははははははははあああああああ!!」


 ミカギリの悲鳴が上がる。

 がっくりと膝を落とし、手で押さえても溢れてくる鮮血を見ておののく。


 すると、我は手をかざした。

 回復魔術を使う。


 すぐにミカギリの傷は癒えた。


「じゃ、ジャアク……。お前、一体何をしたのだ?」


「別に驚くようなことはしてません。ミカギリ先輩の剣の軌道を変えて、あなた自身の方へ向かうようにしただけです」


「ば、馬鹿な……。そ、そんなことができるわけが」


「出来ますよ。ミカギリ先輩と私の実力の差なら容易なことです」


「世迷い言を!!」


 ミカギリは声を荒らげる。


 やれやれ……。弱ったな。

 これほど実力の差を見せつけているというのに、まだわからんのか。

 どうやら、この男の頭の悪さすら、我は回復できていないらしい。


「わかりました……。では、次が最後にしましょう」


「な、何をする気だ」


「また先輩の大太刀を弾きます。ただし今度は、首を落とします」


「く……」

「「「「く……」」」」


「「「「「首ぃいぃぃいぃいぃいぃぃぃいいい!!」」」」」


 その悲鳴はミカギリだけではなく、周囲からも聞こえた。


「大丈夫です。回復魔術で回復してさしあげますから」


「お、愚か者! 首を落とされて、回復など」


「できますよ。信じて下さい」


 昔、誤ってロロの首を落としてしまったのだが、その時回復魔術で治してみたら、案外簡単に治ってしまった。


「死んでからすぐにかければ、問題ありません」


「しょ、正気か、貴様!!」


「私は大まじめに言っているのですか? それは私を愚弄しているのですか? それによく言うではありませんか……」



 馬鹿な死ななきゃ治らないって……。



「翻せば、死ねば治るという意味です。少しは先輩の愚かさが治るかもしれませんよ」


 ぞっ……。


 何かそんな音が聞こえた。

 周囲を見渡すと、皆が顔を青ざめさせている。

 審判やBクラスの生徒、さらに強い絆のあるFクラスも同様であった。


 ん? 我、なんか変なこと言った?


「や、ヤバい……」

「やっぱジャアクだ」

「首はさすがに引くだろう」

「本当に殺す気なんだ」


 声が漏れてくる。


 んん? 皆、何か勘違いしておらんか?

 我は単純にミカギリの頭の悪さを治したいだけなのだが……。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


もう回復魔術の領域を越えている(知ってた)。


面白い、早くミカギリぶっ倒せと思った方は、

是非作品フォロー、レビュー、コメント、応援の方よろしくお願いします。

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