第15話 密かに育まれる悪

 1回戦の相手は、ネレムがいるEクラスだった。


「なんだ、Fクラスのヤツらの殺気は?」

「いつになく本気だぞ、あいつら」

「ヤツらがジャアクのいるFクラスか。なるほど、面構えが違う」

「野獣のようだ」


 すでに競技会場に来ていた我らを見て、おののいているらしい。

 戦は最初が肝心だ。

 勝つ気概を如何に持ち続けるか。

 それを持つ者が勝者となるのだ。


 今のFクラスには、その勝つ気概が高まっていた。

 皆が一丸になっているのを感じる。

 良いことだ。

 その輪の中に、我がいる。

 その事が何より嬉しかった。


(絶対に勝つ!)

(負けたら、オレ達は死が確定)

(どんな手を使っても、勝つわ)

(ジャアクとトレーニングなんてご免よ)


 何を考えているのか、知らぬが皆の目が血走っている。

 まるで飢えた狼のようだ。


「ルヴルの姐さん、ハートリーの姐貴、胸を貸してもらいます」


 戦う前に、ネレムが我とハートリーに挨拶をしにきた。

 ハートリーは慌てて頭を下げる。


「こちらこそよろしくね、ネレムさん」


「ネレム、準備は万端ですか」


「大丈夫です。仕込みはバッチリですから」


 ネレムは親指を立てる。


 仕込みとはなんだ?

 何か策を立ててきたというのか。

 なるほど。

 これは油断ならぬな。

 胸を貸すと言いながら、我らを倒す気満々ではないか。

 そうでなくては面白くない。


 我はニコリといつものスマイルを浮かべる。


「正々堂々と良い試合をしましょう」


「はい。正々堂々ヽヽヽヽ頑張ります!!」


 そして、試合は始まった。


 前衛の聖騎士10名が居並ぶ。

 その背後で聖女と神官が構え、合図を待った。


「はじめ!」


 教官の声が飛ぶ。


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」


 一際大きく鬨の声を上げたのは、Fクラスだった。

 作戦も指揮もへったくれもない。

 ただ目の前の敵に向かって、ダッシュしていく。


 中央突破か!

 うむ。やはり戦において、中央突破こそ王道。

 皆、なかなかわかっておるではないか。


 対する相手の動きは鈍い。

 これは勝負あったかもれぬぞ。


「ぐおおおお! お腹が痛い!!」

「急にお腹が」

「た、頼む! 回復を!!」


 Eクラスの聖騎士達が蹲る。

 手を上げ、聖女に回復を求めた。


 すぐにネレム率いる聖女たちは回復魔術を送る。


「イタタタタタ!」

「余計に痛くなってきた」

「やめろ! 回復中止!!」


 どうやら急に腹痛に見舞われたようだな。

 実は、腹痛は回復魔術では回復できぬ。

 それどころか、体内を活性化させ、さらに腹痛を促してしまうのだ。


 我らよりランクが上とはいえ、まだまだ我らと同じ新入生だ。

 回復魔術の理解が浅かったようだな。


 Eクラスの陣形が乱れる。


 それを見て、俄然士気を上げたのが、我らFクラスだ。


「うおおおおおおお!!」

「なんだか知らないが、勝てそうだ」

「行け! 行け!!」

「畳みこめぇぇぇえええええ!!」


 その闘技はあまりにも稚拙だ。

 子どもの喧嘩に等しい。

 だが、確実にEクラスを押し込んでいく。

 そして、ついに――――。


「Fクラスの勝利!!」


 ついに我らFクラスが勝利をもぎ取った。


「オレ達の勝利?」

「私たち勝ったの?」

「信じられねぇ」

「平民のおらたちが……」


「「「「「やったぁぁぁぁぁああああああ!!」」」」」


 喜びを爆発させる。


 一方、敗れたEクラスは何が起こったかわからず呆然としていた。

 ネレムの姿もすでにない。

 一方的な敗戦に戸惑い、この場を後にしたのだろう。


 トラブルは仕方ない。

 だが、こちらとしても貴重な1勝を得ることができた。


 これで皆もわかっただろう。

 我々は最底辺のクラスではない。

 この調子で他のクラスを討ち果たし、我らの実力を学院内外に知らしめてやろう。





 その頃……。


 ネレムは聖クランソニア学院の裏手にある川岸に立っていた。

 手に握った瓶を、川に向かって投げる。

 その瓶のラベルには『下剤』と書かれていた。


「みんな、悪く思うなよ。これも、世界を救うためなんだ。そのためなら、あたいは悪魔にだってなってやる」


 密かに悪の道へと進もうとしていた。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


どんどんネレムが悪の道へと落ちていく……。


面白い、ネレム早まるな! と思った方は、

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