とある国の勇敢なる攻防

DAT(Rabbits' Ear Can

とある国の勇敢なる攻防

 敵国の女兵士を殺したのは勇敢な市民たちだった。

 兵士は鋭い切っ先に猛毒を滴らせて抵抗したが、大義の元に猛り狂った軍勢を前にしては、もはやなす術もなくついに朽ち果てた。

 女兵士の身長は、この国の男どもを優に越えていた。偵察の役を担っていた彼女は、この小さき民たちで成る国の存在を仲間へ知らせ、少数の軍をもって制圧するつもりであった。実際に十数の軍とも呼べぬ数をもって、この数えきれぬほどの民衆の全てを殺戮できるほどの戦力差が、彼らの間には生まれながらにして確かにあったのだ。しかしこの油断が彼女を死に至らしめることとなった。


 ある働き者の手は日々の労働で真っ黒に汚れていた。彼は普段と同じように働きに出る支度を済ませ、外へ出ようとした。その時、あの女兵士と、彼女の周りに転がる仲間の無残な遺体を目にしたのだった。彼は目の前の非日常に恐怖し、動くことができなくなってしまった。周りの同朋も、似たような眼をしてその光景を見つめていた。

 彼はしばらく、瞬きもせずその殺戮を眺めていた。しかしその内に、彼自身にもわからぬ感情が湧き上がり、やがてそれは全身へと広がっていった。気づけば彼は空中にいた。そのまま目の前の女兵士に掴みかかる。彼女の足元には、見知った顔が横たわっていた。

 震える手で必死に女兵士にしがみつく。圧倒的な体格差に何度振り払われようと、蹴り飛ばされようと、手足を引きちぎられようとも、彼は残った腕で彼女に立ち向かう。それを見ていた同朋たちも、次第に彼と同じように全身を不思議な感覚に包まれていった。

 気づけば彼女は何十もの手に包まれていた。市民たちの塊は、一つの大きな球になっていた。球は熱を帯びていた。彼女は天地も分からぬ灼熱の濁流に呑まれ、ついに息を引き取った。屈強な兵士は、労働者たちの熱気に沸殺されたのだった-


 …なんだよ、そんなにつまらなさそうな顔をして。どこの国の話かって? さぁ、案外近くかもしれないよ。

 ちょっと待てよ、もう少し付き合ってくれてもいいだろ。お前はいいかもしれないけど、俺は傘を持ってきてないんだ。今校舎から出たら、家に着く頃にはずぶ濡れになっちまう。

 多分、通り雨だろ。もうちょっと教室にいればそのうち晴れると思うからさ。それとも、お前の折りたたみで相合傘してくれるっていうなら別にいいんだけど。

 分かったよ、じゃあ雑学にしよう。理系のお前にはもっと細かい数字が出る話の方がいいだろうから。一昨日テレビで観て知ったばかりのやつだけど。

 お前ん家っていつも風呂は何度くらいで沸かしてる? …あぁ、俺んトコもだいたいそのぐらいだわ。それより熱いともう5分だって浸かってらんないよな。

 でもよ蜂ってすごくって、あの小っこいミツバチなんて51度くらいまで耐えられるらしいぜ。スズメバチだって46度くらいまでしか耐えられないのに。

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