第35話 恐ろしい力

体内時計が朝だと言った。

しばしばとする目を擦りながら開く。

宴に参加した半数以上の生徒は散らかしまくった広間で眠っていた。阿修羅もその一人だ。


周りはまだ寝ていて、うるさいゴリラのようないびきもそこかしこに聞こえる。


「やっと起きましたか」


気配のない後ろから声が聞こえた。

体をビクッとさせ振り返る。


「エルか…。脅かすなよな」


「まだ魔力探知、できませんか」


「出来るわけねーだろ習ってもないんだから」


表情や雰囲気は寝起きと言っていない。

しかし、誤魔化しようがない頭の寝癖が寝起きと言うことを教えてくれた。

バレないように直しはしたんだろうがピョンと髪の毛が何本か跳ねている。


「寝起きか?」


「…いいえ」


「寝起きだな?」


「さあ、朝練に行きますよ」


食い気味に話題を逸らし、先に歩いていく。

その後ろをまだフラフラとする足取りでついて行った。


廊下を歩いてすぐ、外の庭に出た。

寮から陽の光が見えるとは思っていなかった。

地下だど思い込んでいたがそうでは無いらしい。


やっぱり朝練するならお日様がないと始まんないよな。

阿修羅は両腕を大きく広げ深く深呼吸をした。


「それで?朝練って何するんだ?」


「簡単です。まずは今の実力を知るために──」


エルは杖を出した。

そして何やら唱え初め、太陽と同じように熱い炎で視界が覆い隠された。


「うぉッ!!」


間一髪横に飛び込んで避けた。

膝が擦りむけジンジンと熱くなる。


「おいおい!急すぎるって!」


「聖戦も急に始まる!」


杖を何度も振り、炎の玉が逃げ場を潰すように飛んだ。


「しゃあねぇ…」


全神経、集中。

寝起きとはいえ、魔力は巡る。

見える、魔術経路。


身体強化エア・ルート!!!」


◇◇◇


「きっちぃ…」


全身から汗が吹き出し、所々汗に血が混じっている。


「なるほど…。割と戦闘は得意のようですね」


「ああ、俺も自身はあったんだけどよ」


唾を飲み込み一息つく。

喉が張り付き目が涙で潤う。


「エル、お前強すぎ。自身喪失だ」


阿修羅はこんな状態にしたエルわピンと汗もかかずに突っ立っている。

エルが寸止めしなければ今頃おれは消し炭になっていた。


「こんなもので自身喪失するのは違います。

聖戦は選ばれた戦士が集う場所。私では歯が立たない相手が五万といる」


杖をしまい、庭をぷらぷらと歩き始めた。

阿修羅はまだ立てず、背を地面につけている。


「正直なとこどうなんだ?エルの強さって」


「魔法だけなら阿修羅の次に死にます」


「まじかよ───」


この学校でもエルは上の位だ。

それが聖戦じゃひよっこ同然ってか…。

分かってはいたが、想像以上だ……。


「ですが」


足を動かしていたエルはその場に止まり、落ちている木の棒を取った。


「私は騎士、本来魔法よりも剣を得意としてます」


「え?お前剣つかうのか?」


「ええ、言ってませんでしたっけ」


「ああ、初耳だよ」


地面から背を離し、あぐらをかいて座る。

エルは木の棒に魔力を注いで何やらしている。


「じゃあ騎士としてなら聖戦、どうなんだ」


「それでも私より強い者はいます。

何より人間では無い種族の可能性もある。魔法は鍛える年が多いほどその量と威力は絶大となる。何百年も生きてる種族に魔法で対抗するのは無謀の策です」


「そーゆーもんなのかぁ…」


しかし、と真剣な顔でエルが付け足した。

あまりの真剣さに阿修羅は生唾をゴクリと飲み込んだ。


「悪魔”の力だけは別です」


「悪魔の力?それって聖戦に選ばれた奴が貰うっていう力の一つか?」


「ええ、あれはどの力よりも絶大な強さを持ちます。ただ、それ故に制限が多いと言い伝えで残ってる」


何か体がゾワッとざわついた。

それが本能的に恐怖を感じたのか、それとも他の何かか。


「私が知っている制限は二つ。

寿命を削って力を使う、一定の回数を超えると身体の一部が使えなくなる。という制限です。

これは他の力にはない制限です。と言うより、他の力に関しては制限がありません」


「…そんなん悪魔が圧倒的に不利じゃねーか」


「いいえ、それらの制限をつけて尚、悪魔の力は絶大なのです。

しかしそうですね、使い勝手は非常に悪いと言うのが正解です。ある程度の戦闘では力を発動させないでしょう」


阿修羅は少し怯えながらも真剣に聞いていた。

だが、その悪魔の力とやらを想像しすぎたあまりに力の抜けた顔でほぼ聞いてない人のようになってしまった。


「…阿修羅、ちゃんと聞いてますか…?」


そのせいでエルは訝しむ目で阿修羅を見つめた。

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Evil Zero 七山 @itooushyra

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