6.2 今はいいかなって

 日向さんが説明を加えてくれる。


「わたしのことを気に入ってくれたのが15人で、うまく断れたのが9人。だから9勝」


 ……全部振ったってことか。すごいな。でもそれだと15戦全勝ってことなんじゃないかな。負けってなんだろ。


「1敗は? 刃物で刺されたり?」


「違うよ、逆」


「刺したの!?」

 

「なんでよ。断るときに傷つけちゃったことがあって。それが1敗。で、どちらとも言えなさそうなのが引き分け」


「冷たい断り方をした、ってこと?」


「……まあそんなかな。でさ、ちょっとそういうのに頭を使わない生活をしたいんだ」


「気にしすぎちゃう、ってことなのかな」


「うん。断ったら傷つくだろうな、って。初めはどう言うのが一番いいのかとかうじうじと悩んだんだ」

 

「奈美ちゃんいい子でしょ、池辻くん」


 小月さんが自慢気だ。

 俺も特に否定する気は無い。


「日向さん、優しいんだね」


「そんなんじゃないよ」


「俺はそんな悩み持てたことないけど。同じ状況だったら途中から雑になっちゃう」


「うん。そうなの」


「いやいや。そうじゃないから悩んで、疲れちゃったんでしょ?」


「最初はそうだったんだ。いっぱい悩んで、丁寧に返事を手紙にして、人に見られないようにこっそり渡して。でも回を重ねるごとに雑になっていって」


「それはしょうがない気もするけど」


「そのうちに今は面倒くさいから後にしてほしいな、とか。なんかね、うまく言えないけど感情じゃなくて数字で処理するようになってきちゃうんだよ」


「慣れ?」


「かな。私ね、好意を伝えられる度にどんどん嫌なやつになっていくんだ」


 小月さんと二人で黙って聞く。


「途中でこれじゃ駄目だって仕切り直したこともあるよ。できるだけ相手が傷つかないようにって。でもさ、今振り返ると自分が悪い人じゃないって思いたかっただけなんだよ」


 それは日向さんが駄目とかって話じゃなく適応なんじゃないか。確かにどちらかと言うと振られる側の身としてはそんなことないよ、と言い切れない気持ちもあるけど。

 

「だからね、高校では自動応答みたいに断ることにしてるの。ただごめんなさい、ってしておしまい。相手のことは一切考えないし、労力も割かない」


「さっき俺誘惑されかけたけど」


「あれは千穂がらみだから。池辻くんが千穂にしか興味なくて安心したよ。……ただ男の子に急に迫られるのって怖いね。ちょっと調子に乗りすぎた。反省してます」


「しょうがないよ。奈美ちゃんにデレデレしてた池辻くんが悪いんだよ」


 日向さんを慰める中にちょっと非難を混ぜてくる小月さん。

 ……小粋な軽口で場を明るくしようとしたつもりが日向さんにマジレスされた上に小月さんの藪をつついてしまった。


「別に男の子が嫌いとか一生誰とも付き合わないとかじゃないよ。でも今はいいかなって」

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