幻雨

伊島糸雨

プロローグ


 世界中を巻き込む戦争があった。

 たくさんの国が壊れて、たくさんの鉄が屑になって、たくさんの人が死んで、そしてもっともっと多くの人が、どうしようもなく傷ついた。

 たくさんの爆弾とたくさんの化学兵器が街を焼いた。空は鈍色の重たい雲に覆い隠されて、燦然と輝くあの美しい青を、どこか遠くへとやってしまった。

 一連の出来事について、誰が得したのかを理路整然と説明できる人は、きっといないんだろう。勝ったなんて言われても、これっぽっちも笑えはしなかった。失くしたものの対価にしては、あまりにも現実味がなくて、薄っぺらで、ちっぽけな言葉だった。

 半年前、戦争が終わった日は、朝から雨が降っていた。

 ラジオのノイズと同化して、潤む世界と溶け合うように。

 雨が、降っていた。

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