夢を見た。

千島令法

25681003

2048年2月15日。

世界は、人間を人工的に作る事に成功済み。

DNAから一人の人間を作ることが出来たのだ。


宇宙からエネルギーを取り出すことも可能な世界。

膨大なエネルギーのおかげで人間達は電気を自ら作らずとも暮らせていた。


この世界は狭くはなく、広くもない。

十万人ほどの人が生きている。

多様化されていない文化や人種。

一種類の人間だけの世界。


そこに住むある笑いの絶えない明るい家族。

彼らは家を持ち平穏な人生を歩んでいた。

田舎のような環境で。

そこには川があり山があり海がある。


---


2539年8月26日。

ある日、次男が夢を見た。

世界が滅ぶ夢。

茶色の芋虫がうごめく夢。

あまりにも恐ろしく泣きながら起きてきた。

その話を母にした。

母は表情を強張らせ笑っていた。

「気にすることない」と言いながら笑っていた。


---


2056年11月20日。

温暖化が進み海面が上昇。

至る所で川が氾濫間際。

濁流が日常となっていた。

普通の車や列車は動けなくなっている。

陸が沈むまでのその間。

人間達は、列車を濁流をも進むことが出来るように、改造を進めていた。


---


2057年12月16日。

川が氾濫し、人間達は施設を目指すことを迫られた。

道がそれしかなかった。


沈んだ施設は人工人間の製造工場。

人間を長期間製造し続けることが出来る。

そこでは人が住むことも出来る。


列車は完成していた。

濁流の中、一週間は進むことが出来る列車になっていた。


人間達は希望を託し改造した列車で、工場へ向かう。


工場へ向かう途中、急激に海面が上昇。

工場への道は水中へ。


---


2057年12月18日。

水中から工場を目指す。

水中を二日ほど進み、工場へ着いた。

安堵していた人間達。


しかし、工場が一部損壊していた。

居住スペースに水が入りこんでおり隔離せざるを得なかった。


動揺する人間達。

その中でも冷静な人間達が小数いた。


---


2539年8月26日。

母は次男の手を引きながらある所へ向かう。

顔は強張らせたまま笑っていた。

次男は不安に思いながらも母に着いていく。


「工場」に着いた。

母は次男を置いて「工場」へ入っていく。


しばらくして母は戻ってきた。

隣には男性が一人。

「彼に着いて行きなさい」と母が言う。

男性に手を引かれながら次男は着いていく。


そして、次男は死んだ。


---


2057年12月18日。

工場に全員が降りることが出来なくなってしまった。

冷静な人間が数人、列車で地上へ帰る選択する。


地上へ帰る人間達を見送りながら工場内に入る人間達。

泣きじゃくれる人間もいた。

この人間はいずれ死ぬだろう。


収容可能な人数を置いて、列車は来た道を引き返す。

当てもなく。


---


2057年12月20日。

列車に残った彼らは楽しそうに、笑いながら外を眺めていた。

彼らは自分の選択した道が正しいかのように、冗談を言いながら笑い合っていた。


列車が水面から上がった時、世界は霧で満ちていた。


---


2539年10月27日。

次男は真夏の中、遊んでいた。

汗だくになっていた。


---


2540年8月26日。

次男は夢を見た。

世界が滅ぶ夢。

あまりにも恐ろしく泣きながら起きてきた。

母に話そうかと迷っていたが、怖くなって話さなかった。

話せば世界が滅ぶ気がした。


そして、彼は思い出してしまった。


「工場」。


次男は思い立って家を飛び出した。

「工場」へ向う。


「工場」は薄暗い。

何か覚悟を決めたように次男は「工場」へ入っていく。


---


2057年12月20日。

工場へ残った人間達は、DNAをデータベースに保存した。


---


2566年12月8日。

次男はコンピュータに向かってキーボードを叩いていた。

過去のデータを集めた次男は情報をまとめている。


世界が滅んだ夢について。


*********************

これより夢について記す。

現在、2566年12月8日。

私の名前はM。


まず、私が見た夢。

あれは私の過去の記憶とでも言うべきものだろう。


私は、2050年1月28日に生まれた。

2057年に私は住むところを追われた。


地球温暖化が進み、川が氾濫、海面が上昇。

茶色の芋虫がうごめくように、氾濫している川が印象に強く残っている。


そして、人工人間の製造が行われている工場へ逃げ込むしかなかった。


製造工場行きの列車があると噂で聞き、家族で列車に乗り込むことが出来た。


そこに着いて、すぐ居住区の一部が海水に飲み込まれてしまっていたことが分かった。

管理システムが作動し、その一画は隔離されていた。


収容人数を超えているため、一部の人たちは列車へ戻っていった。

しかし、彼らは笑っていた。


その者らをおいて、私は工場の中で住むことになった。

そこは現実の世界をまねて作られた田舎のような風景。

どうやら元々は製造された人工人間が訓練のために暮らしていた場所のようだった。


しばらく家族と暮らしていると、私は夢を見た。

2540年。

川の氾濫が起き、海面が上昇し、世界が滅ぶ夢。


それを話すと母に人工人間の製造を行っている核となる施設へ連れていかれる。

私は思い出したように「工場」と呼ばれる場所へ向かった。


そして、「工場」の中へ侵入した。

「工場」の中はおぞましかった。

大量の人間達がいた。

しかし、その人間達の中に私が見たことがある顔があった。


自分の顔だった。

幼い自分から今とあまり変わらない自分まで、様々な年齢をしている自分。

私の成長過程を見ているかのように並んだ自分がいた。


そこから私は過去を思い出してしまった。

私は2058年の8月26日に一度死んだ。

いや、殺された。


そして、2058年の8月27日に、この世界に戻ってきた。

一部の記憶を人工人間である自分に移して。


毎年、8月26日に殺され、8月27日に人工人間としてこの世界に戻ってきていた。


過去の記憶を夢として見た私を、この世界は消すルールとなっていた。

私が見る夢は禁忌とされていた。


追記:

現在、2566年12月18日。

データベースに残っている過去の記録を見ると列車に残った人たちの中に、この工場外の世界は滅ぶことを知っている人もいたようだ。

そして、この工場もいずれ滅びることも分かっていたらしい。

彼らは苦しんで残るより、軽く死ぬ喜びを味わっていたかったのかもしれない。


********************


2587年5月23日

……


以上、Q15762(通称M.次男)に関して現在システムに保管されている記録となります。


閲覧したい情報がある場合、入力お願いします。


> 現在の生存者数


13


> システムのエラー


人工人間の製造 不可

 保管されていたDNAデータベースにアクセスできません。

人工河川の制御 不可

 外部水圧が高まり流入する水のコントロールができません。

個人記憶装置の制御 不可

 個人の過去のデータへアクセスできません。

 また、バックアップへのアクセスもできません。


……他256件の致命的なシステムエラーがあります。

至急システムの修復が必要です。


> 残エネルギー量


4%


>

>

>

>

>

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夢を見た。 千島令法 @RyobuChijima

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